先日、「ディスプレイ、この1年」と題した記事を執筆しましたが、2012年はディスプレイ関連の新技術の話題に事欠かない1年となりました。編集部の数少ない“ディスプレイ記者”である筆者にとっては、仕事が豊富なうれしい1年だったとも言えます。
 
 とはいえ、冒頭の記事で紹介したのは、スマートフォンやタブレット端末、テレビ向けのフラットパネル・ディスプレイ(FPD)技術のごく一部にすぎません。年末の忙しさにかまけて、紹介できなかった話題は数多くあります。その一つが、頭部に装着して使用するヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)関連の話題。非透過型(没入型)と透過型のそれぞれで、数多くの発表がありました。

 2012年のHMDの話題の中で最も注目を集めた一つが、米Google社が2012年4月に発表した「Google Glass」です。ユーザーの周囲に映像を重ねて表示するAR(拡張現実感)に対応した透過型HMDであり、2012年6月に開催された開発者向けイベント「Google I/O 2012」の参加者を対象に評価版の予約を受け付けました。同社が本腰を入れたことで、「産業用途のみならず民生用途でも透過型HMDがいよいよ離陸するかもしれない」と期待する関係者は多いようです。

 もちろん、競合企業にとっては、Google社に先を越されたくないのが本音でしょう。「最近はトーンダウンしている」(国内の関係者)との指摘はあるものの、米Apple社は2012年7月にHMD関連の特許を出願していることが話題となりました。国内企業に目を向けると、ソニーの動きが気になるところ。同社は、2009年1月の「International CES」での基調講演で試作機を披露して以降は目立った動きはありません。しかし、映像視聴向けの没入型HMDは好評を博しているだけに、そろそろ透過型HMDについての新たな動きがあっても不思議ではありません。2013年は、FPDに替わりHMD関連技術が、ディスプレイ業界の話題の中心になる可能性もあるかもしれません。

 筆者個人としても、「2013年はぜひHMDの開発動向を取材したい」と思っていたのですが、残念ながらそれは不可能になりました…。仕事納めの12月28日にエディターズ・ノートを執筆していることから気付いている読者の方もいらっしゃるかもしれませんが、2013年1月1日付で異動することになったからです。新しい所属先は「日経ビジネス」になります。

 2007年6月に、某家電メーカーの技術者から「日経エレクトロニクス」の記者に転職してちょうど5年半。振り返ると、国内家電メーカーの栄枯盛衰を見てきた気がします。読者の皆様および、取材に協力いただいた皆様、どうもありがとうございました。今後は、これまでとは少し異なった視点からになりますが、エレクトロニクス業界の動向を取材させていただければと思います。