「失われた10年」という言葉がある。1990年代前半から2000年代前半にかけての経済的な停滞を指す言葉だが、今や失われた期間は20年に及んでいる上、状況が好転する兆しも見えない。もはや「失われた30年」に向かっているとの論調も多くある。

 このような経済状況ではあるが、こと製品開発プロセスについて振り返ってみると、この20年間でさまざまなレベルアップがあったのは間違いない。しかしながら、この点に関してはあまり言及されることがない。その理由は、このレベルアップした開発プロセスが、事業成果に結びついていないからである。

 本来、開発プロセスは、事業成果を獲得するための重要な要因のはずだ。ただ、事業成果を獲得する重要な要因となるかどうかは、製品のライフサイクルのステージによって変わる。成熟期の製品では、次の製品ライフサイクルを立ち上げられる事業の創出が最重要課題であり、開発プロセスがレベルアップしたことの効果は間接的なものに留まる。近年、このようなステージにある市場が多く、開発プロセスのレベルアップが事業成果を左右する要因にならないケースが多かったのである*。

* 対照的に、導入期の製品はそれほど競争が激しくないため、事業のポジショニングによる影響が大きい。一部の産業機器のように固有技術が必要なニッチ市場では、開発プロセスが旧態依然としたものであっても高い利益率を確保できることがある。

 一方、成長期の市場では、顧客ニーズに適合した製品をタイムリーに市場投入することが事業成果に直結する。多くの市場が成熟する中、かつてのような成長期は二度と来ないという論調もあるが、大局的に見れば、形は変わっても成長期は必ず巡ってくるといってよいだろう。現在、開発拠点の海外展開を図っている企業では、数年後には、開発プロセスのレベルアップが事業成果を左右する重要課題となる可能性がある。そのタイミングは市場や企業により異なると思われるが、現時点から、そのための準備をしておくことが望ましい。

 この準備においてまず行うべきことは、大局的に見た“これまでの総括”である。すなわち、どのようなことがレベルアップでき、どのようなことが思うようにいかなかったのか。そして、その原因は何か。これらを把握した上で、今後の課題に立ち向かうことが、よりよい準備への近道なのだ。

 そこで今回は、この20年間で「開発プロセスをレベルアップできたこと」(○)、「あまり変えられていないこと」(△)に分けながら具体的に見て行きたい()。

表●開発プロ セスでレベルアップできたこと、あまり変わらなかったこと
課題方策
[1]開発プロセスにおける部門連携について ○:開発初期段階における後工程部門のレビュー参画
△:開発初期段階における後工程部門による課題解決
[2]3次元データの活用範囲について ○:構想設計段階でのCAE
△:3次元データの後工程活用
[3]開発プロセス改善時の検討範囲について ○:開発プロジェクトのQCD目標を達成するための開発プロセスの継続的改善
△:開発プロセス改善の後工程オペレーションへの影響検討
[4]開発プロセスの改革レベルについて ○:個別商品企画の高度化、性能の早期確保
△:製品群企画の高度化、技術安定性の早期確保
[5]技術者教育について ○:固有技術の知識教育、管理手法の教育
△:基本的な考え方の教育