[2]3次元データの活用範囲について

○:構想設計段階でのCAE
△:3次元データの後工程活用

 次は3次元データの活用範囲について考えよう。10年ほど前、3次元CADの使用が一般的になり、詳細設計完了後の干渉チェックやCAEなどによって、3次元データ活用における初期的効果の獲得に成功した企業も少なくなかった。そうした企業による、その後の活用範囲の拡大方向としては、前工程側と後工程側の2つがあった。

 前工程側への活用範囲拡大は、たとえば設計の構想段階でのCAE活用などであり、概要モデルで技術方式の見極めを行うためのモデリングの在り方やCAE精度の把握など、主に技術的な課題が中心となっていた。一方、後工程側への活用範囲拡大としては、作業手順書や保守部品表の作成などであり、開発部門から後工程部門へのデータの引き渡しや、後工程部門メンバーへの3次元データ取り扱い方法の教育など、主に組織的な課題が中心だった。

 その後の10年でどちらの活用範囲が拡大したかといえば、圧倒的に前工程側である。技術者は困難と思える技術課題を次々と解決していったが、マネジャーの多くは、着実に進めていけば実現できたはずの組織間の調整を実行しきれなかったようだ。共著者の鳥谷氏が社長を務めるラティス・テクノロジーでは、軽量3次元データのソリューションを販売している。このソリューションは、部門連携に活用することで最大の効果を発揮するが、実際には部門内の効果が得られるような単位に細分化して販売されている。鳥谷氏によれば、これは単一部門の決済で済む場合と複数部門の決済が必要な場合で、受注確定の確率や受注までのリードタイムが大きく異なる、という経験則に基づいている。ここからも、部門間の調整に苦労している企業が多い、ということがうかがえるだろう。

 3次元データの活用というと、3次元データに関する知識が重視され、活用推進のリーダーを若手の機構設計者に担当させる企業もある。しかし、3次元データ活用展開における課題としては、現実には、技術的な課題よりも組織的な課題がネックとなっていることが多い。このことは十分認識しておく必要がある。