前回述べた「これからのPLMのコンセプト」では、「従来のPLMのコンセプト」よりも広い企業活動をカバーしている。「従来のPLM」でさえ構築・展開・進化させにくいといわれてきたが、さらに範囲を広げると、ますます展開しにくくなると感じられる向きもあるかもしれない。しかし、一見複雑で困難そうに思える「これからのPLM」の構築の進め方も、目的を整理して考えることで展開を容易にできる。今回は、その方法論を中心に述べてみたい。

ユーザー、ベンダー双方の意識を整える

「これからのPLM」のコンセプトを展開するためには、まず「意識を変える」ことが重要だが、意味合いとしては「意識を整える」といったところであろうか。ここでは、ユーザー側、ベンダー側双方の「意識の整え方」を以下に挙げていく。

ユーザー(使用者)側としての意識の整え方

◆PLMの戦略を企業の全社経営戦略、全社戦略、事業戦略などと連携させ、それらの実行部隊の計画・実行にまで落とし込む。実際は関係する複数部門の協働化となるが、主管部門とその支援組織との関係を明確にすることが肝要である。

 理由:企業には必ず全社経営戦略があり、その下に全社戦略、事業戦略がある。事業ユニットの役割としては、個別の製品やサービス(あるいはそれらの群)の市場投入(顧客納入)時期、かけるコスト、利益を最適化することが重要である。また、企業としては、それら事業ごとの最適化も追求しながら、全社を串刺しした全社最適化をも追求する。

 例示すると、全事業にまたがったコア技術戦略(全社横断的なコア技術の共通化・流用化)、開発戦略(全社横断的なモジュラー戦略やグローバル視点での開発設計機能のローカル拠点対応戦略)、購買戦略〔最適なIPO(International Procurement Office)化〕、ビジネス戦略(“もの・こと”を提供するビジネスモデル戦略)、サービス戦略(これからの時代は、安定的な利益創出に資する重要な要素)、さらには全社経営戦略、そのマネジメントのための分析・見える化(BI)戦略、それらを支援するICT戦略などがあり、PLM戦略と相互に包含関係にある。

 一般的な傾向として、情報システム部門がPLM推進の主管となる場合も多いと思うが、これは最終的な目的を曖昧(あいまい)にしてしまい、進化に限界が生じてしまう、というのが筆者の持論である。したがって情報システムが主管するのはICTなどの技術面やシステム運用面、全体の事務局など、支援機能に限定すべきだろう。そして、全体主管は会社の戦略に責を持つ機能(経営企画など)が執るのが理想だと考える。「これからのPLM」のコンセプトは、全社戦略の中でも企業ビジョンに近く、これを受けた全社戦略や、下位の事業戦略における具体的な実行項目も含むので、全社的に社長が旗を振り、事業的にはその責任者や配下の組織機能の責任者(部門長などマネジメント層)の連携のもと、整合性を取って戦略策定・マネジメント・実行すべき内容である。

 このあたりが、世界で成長を続けている真のグローバル企業に在って、昨今の日本のものづくり企業に不足している点ではないかと感じている。「いや、きちんと戦略間の連携は取っている」との声が聞こえてきそうだが、全体を認識・把握してマネジメントできている企業は稀だろう、と推測している。

◆最初からPLMツール(システム)を前提とした議論はしない。

 理由:ツールやシステムを前提としてしまうと、本質的な目的や展開範囲に大きな予断を与えてしまう。10年ほど前から、CAD・PDM・PLMツールは一体である(従ってPLMベンダーも)、という考え方が常識とされる時代が続いてきたが、少なくともスタート時からツール前提で考えることは邪道である。