2013年が幕を開けました。

 今年の干支は巳。前回の巳年は2001年ですので、21世紀に入ってから干支がひと回りしたことになります。

 前回の巳年、つまり2001年を振り返ってみると、インパクトのあることがいろいろとありました。私にとって最も印象的だったのは、薄型テレビ・ブームが始まったことです。シャープが2001年1月1日に「AQUOS」ブランドの液晶テレビを発売し、日立製作所が同年4月にPDPテレビ「Wooo」を発売しました。シャープはそれ以前にも液晶テレビを販売していましたが、AQUOSブランドを使うのは2001年以降です。2001年当時、最も画面寸法が大きな液晶テレビは20型でした。一方、日立製作所のWoooは画面寸法が32型であり、当時としては比較的求めやすい価格の薄型・大画面テレビでした。

 日経エレクトロニクス2001年12月3日号に掲載した記事では、当時の様子を次のように伝えています。

実際、家電量販店は久々の大型ヒット商品に沸き立っている。「まさかCRTテレビより3倍~4倍もする液晶テレビや、50万円を軽く超えるようなPDPテレビが飛ぶように売れるようになるとは思ってもみませんでした。これまでCRTテレビの売り上げが停滞していただけに、笑いが止まりません」(ある大手家電量販店)という。

 「ブーム」というくらいですから、売り上げもうなぎのぼりでした。2001年秋に取材した段階で、「テレビ全体の販売に占める薄型テレビの割合は台数ベースでは約8%にすぎないが、金額ベースでは約25%に達する。この値は毎月上がっており、2002年には金額ベースで50%に達する見込み」という大手家電量販店もありました。

 当初は日本市場で立ち上がった薄型テレビ市場はその後、世界的に拡大し、韓国のSamsung Electronics社やLG Electronics社といった後発メーカーがコスト競争力や販売力を生かして台頭し、今日に至ります。市場の火付け役だったシャープは液晶テレビ事業の不振が影響する形で業績が悪化、その立て直しが待ったなしの状況です。一方の日立製作所は今からちょうど1年前の2012年1月、テレビの自社生産から撤退します(同社の業績は他の日本メーカーに比べるとかなり堅調)。大手家電量販店はテレビ需要減の影響で、業績は芳しくありません。

 薄型テレビを含むデジタル民生機器は価格下落が激しく、製品サイクルが短く、ヒット商品を出せずに他社の売れ筋商品に続く「2番手商品」ばかり出していると、事業環境はすぐに悪化してしまいます。2001年当時の薄型テレビのような画期的な製品を繰り返し出していくか、そうでなければ事業そのものから撤退する道しか残されていないようにみえます。

 新しいものを生み出すには、企業の競争力が強くなければなりません。この点について、日本の競争力低下が叫ばれて久しいです。最近ですと、米Deloitte Touche Tohmatsu社が公表した報告書「2013年 世界製造業競争力指数」によれば、日本の製造業の競争力は現時点で10位注1)。ちなみに、トップは中国、次がドイツ、以下は米国、インド、韓国、台湾、カナダ、ブラジル、シンガポールと続いて日本です。今後、新興国の競争力が高まり、5年後にはベトナムがトップ10入りするとみています。日本は、11位に入るインドネシアにも押し出される形で12位まで落ちるとのこと。なお、この報告書は、世界各地のメーカーのCEOや企業経営陣550人以上を対象に調査した結果です。

注1)米Deloitte Touche Tohmatsu社は世界の製造業界の競争力を左右する要因として、ランクの高い方から「優秀な人材によるイノベーション」、「経済、貿易、金融、税制」、「労働力、供給力」、「サプライヤー・ネットワーク」、「法規制」、「物理的インフラ」、「エネルギー・コスト、エネルギー政策」、「地域市場の魅力」、「医療制度」、「製造業への政府投資」の10項目を挙げる。

 果たして、この予測通りに進んでしまうのか・・・。挽回の可能性はまだあるのではないでしょうか。前出の報告書「2013年 世界製造業競争力指数」では、高度な生産に必要不可欠な熟練者がいることが国家競争力を高めている国として、米国とドイツ、そして日本を挙げています。また、サプライヤー・ネットワークの面で非常に競争力がある国として、米国とドイツ、日本が挙がっています。現段階で、イノベーションを起こせる下地には秀でたものがあります。もちろん、米国に比べると、イノベーションを引き起こすために必要な仕組みには弱い面がありますが、日本悲観論に自己暗示をかける必要はありません。

 日経エレクトロニクスは、2013年1月21日号で創刊1100号を迎えます。約42年間にわたり、エレクトロニクス業界の発展と共に歩んできました。ここ10年あまり、デジタル民生機器分野がエレクトロニクス業界を牽引してきましたが、その様相が変わりつつあります。エネルギー分野や医療/ヘルスケア分野、環境分野、自動車分野にエレクトロニクス技術がより広く、より深く関わるようになっており、今後のエレクトロニクス業界の新たな牽引役になろうとしています。こうした状況をいち早く捉え、エレクトロニクス業界の成長の芽となる新技術、市場や製品トレンドを読者の皆様にお届けする所存です。本年も、よろしくお願いいたします。