やや旧聞になりますが、11月の終わりに自動車関連の学会・展示会「FISITA2012」に参加するため、中国・北京に行ってきました。会場となった中国国家会議中心は北京市の中心から北へクルマで40分ほどのところに位置しています。近くには2008年の北京オリンピックでメインスタジアムとなった「鳥の巣」やオリンピックで使われたプール、体育館があり、国家会議中心自体も、オリンピックのプレスセンターとして使われたということです。

 今回のFISITAのポスターセッションで、米Delphi社はホンダと共同で開発したディーゼルのクリーン化技術について発表しました。この技術は、一口に言えば始動直後のNOx排出量が多い運転領域で、3元触媒によってディーゼル排ガスをクリーン化するというものです。日本ではすでに2012年5月に開催された自動車技術会の春季大会でホンダが発表しています。

 ディーゼルは通常希薄燃焼運転をしているため、3元触媒は使えないというのが常識です。ところが、今回開発したクリーン化技術では、EGR(排ガス再循環)の量を増やして空気量を減らし、空気量が減ると低下するトルクを補うために燃料は若干増やして、燃料と空気の比率を理論空燃比とします。こうして運転者にはトルク変動を感じさせないようにしながら理論空燃比とすることで、3元触媒が働くようにして、NOxの量を減らすことに成功しました。

 もちろん、常に理論空燃比で運転すると燃費が悪くなるので、通常の希薄燃焼運転時に排ガスをクリーン化するために、酸化触媒、DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)や、SCR(NOx選択還元触媒)システムも備えています。今回の3元触媒を使ったクリーン化技術は、SCRが活性化していないエンジン始動直後にNOxを減らすためのものです。

 3元触媒は新たに追加するのではなく、酸化触媒がもともと持っている3元触媒としての機能を生かして排ガスをクリーン化しています。今回のシステムを採用することで、米国の「LEV-III」規制の「SULEV30」をクリアすることに成功しました。Delphi社は今回のホンダとの共同開発で、シミュレーションのためのエンジンモデルを提供することで協力しました。

 このように、ディーゼルのクリーン化は、ガソリンエンジンにひけをとらないところまで進んでいますが、一方で、排ガスをクリーン化するためにシステムがだんだんと大規模化・複雑化してきているのも事実です。また、排ガスのクリーン化を進めると、今回の技術もそうですが、燃費は低下する傾向にあります。

 このため、今回のFISITAでは、ある大手部品メーカーがディーゼルエンジンの将来については悲観的に見ているとの声も聞きました。ディーゼルエンジンは、欧州では燃費向上技術の主流に位置づけられており、日本でも、マツダの「CX-5」でディーゼル車の比率が8割を超えるなど、ディーゼル車の人気が復活しつつあります。しかし、10年先を見通したときの燃費向上技術の主流は何なのか、改めて考えさせられた海外出張となりました。