売上高が100億~2000億円程度の中堅どころの自動車部品メーカーにとって、この1年は「ポスト中国戦略」に知恵を絞った年だった。この10年、部品メーカーが最優先で取り組んできたのが中国進出。それがようやく一段落した。その上、尖閣諸島の問題など“中国リスク”が顕在化した。いま、各社が中国以外の新興国への進出に躍起になっている。

 ただし、ポスト中国の対象となる国の数は多い。そこで経営資源の限られる中堅部品メーカーはあの手この手で工夫する。「日経Automotive Technology」では、各社の知恵と工夫を紹介してきた(本誌2012年7月号)。ここでは一部の取り組みを「ヒト・モノ・カネ」の視点で分けて紹介する。

ヒト――限られた人材で進出

 4年間で5カ国に工場を設立するのに、設計に関わる担当者の数はわずか1人――。ほとんどマジックのように見える体制とスピード感で新興国に攻め入るのがサスペンション部品メーカーのヨロズである(Tech-On!の関連記事)。

ヨロズのメキシコ工場
ヨロズのメキシコ工場

 同社は2010年4月に中国で2拠点目の工場を造ると発表し、2011年10月に稼働させた。そして同年12月にインドに進出。2013年内にはインドネシア、2014年までにタイとメキシコに新しい工場を造る計画だ(Tech-On!の関連記事)。これら全ての工場のレイアウトから導入する設備までを、1人の担当者が設計する。

 この大胆な戦略を実行に移せるのには、もちろん仕掛けがある。これら5カ国の工場全てで、ヨロズは工場の面積から通路の長さ、設備の配置、工具、果ては消火器を置く位置まで共通にしているのだ。生産能力が同じならば、「中国工場の図面をコピーすれば、そのままインドネシア工場の図面になる」(ヨロズ社長の佐藤和己氏)ほどに徹底する。だから1人で済む。

 その利点は工場を造るのに関わる人の数を減らせるだけではない。“コピー”なので検討項目が大幅に減り、稼働までの期間を短くできる。インドネシア工場の設立を計画してから土地を取得、稼働させるまでの期間は1年半を見込む。これは「コピー工場」を導入する前の約半分だ。このため4年間で5カ国に進出するという離れ業のような計画を立てられた。