米国とは異なるスタンスの欧州の裁判所

 このように米国のApple社対Android訴訟では必須特許問題について司法判断にまで至っていない。他方、欧州では、すでに同様の問題を判示した事例が存在する。必須特許の侵害による差止め請求に対して初めて差止めを否定したのがオランダのハーグ地方裁判所であった。そこでは、Samsung社がApple社に対してUMTS規格の必須特許4件でiPhoneおよびiPadの仮差止めを請求していた。2011年10月14日の判決において、FRAND約束はFRAND条件で交渉することを勧める拘束力ある契約であり、2.4%というライセンス料はFRAND条件の提案義務を履行していないとし、Samsung社の仮差止め請求を棄却した。

 ドイツのカールスルーエ高等裁判所では、2012年2月27日に、マンハイム地方裁判所がApple社に対して下した差止め命令の執行を停止した。この訴訟では、もともとMotorola社がApple社をMotorola社の無線通信に関連する欧州特許1件の侵害で、ドイツ国内でのiPhoneおよびiPadの販売差止めをマンハイム地方裁判所に請求していた。マンハイム地裁は2011年12月9日にApple社に対する差止めを認める命令を下した。Apple社は直ちにカールスルーエ高裁に控訴し、マンハイム地裁の差止め命令の執行停止を求めた。カールスルーエ高裁はこのApple社の請求を認め、その決定において、確立した技術標準の必須特許の所有者であるMotorola社は、Apple社に対してiPhoneおよびiPadの販売停止を引き続き要求するならば、当該規格製品市場の参加者へ特許ライセンスを許諾しなければならない独占禁止法上の義務違反となると判示した。

 上述の欧米での訴訟事例を見ると、欧州の方が必須特許の権利行使に対して独占禁止法の適用を重視しようとする傾向があると言える。