その後、2011年6月にSamsung社は当該必須特許を侵害したとしてApple社を提訴するに至った。同年7月には、Samsung社は同社のUMTS規格の必須特許群について、Apple社のUMTS規格準拠製品(すなわちチップなどの部品ではなく「iPhone」や「iPad 3G」などの完成品)の販売価格の2.4%をライセンス料として提案した。Apple社は、この料率が妥当ではないとしている。これは、Motorola社が別の標準必須特許のライセンス条件として要求している2.25%を上回っている。多くのライセンス契約における料率は、1%未満であることが多いようだ。しかも、Samsung社はこれ以外の交渉条件を提示することはなかった。一般には、双方が妥協点を見出しやすいように、いくつかの条件を提示するものだ。

IPRポリシー違反の訴えを判断せず

 Apple社から見れば、Samsung社は両特許をETSIに開示した時点で、IPRポリシー第6条1項に基づいてFRAND条件で撤回不能のライセンスを許諾する用意があることを宣言しているにもかかわらず、FRAND条件を提示していなかった点で、このポリシーに違反していることになる。Apple社はSamsung社の一連の行為をETSIのIPRポリシー義務違反であり、Samsung社特許はUMTS規格準拠製品に実施不能であると訴えた(ここでは必須特許を用いて差止めが可能か否かは争点になっていない)。

 このApple社の訴えに対して、判事は当然のことながらETSIのIPRポリシーを解釈し、Samsung社の違法行為の有無を判断する必要がある。しかしながら、この訴えについて判決を出したとしても、すでに陪審裁判でApple社はSamsung社特許を侵害していないと評決しているので、Apple社は何ら意味のある救済は得られないこと、また、Samsung社特許が実施不能であるとのApple社の請求について判断するためには、フランス国法に支配されているETSIのIPRポリシーを解釈しなければならず(ETSIはフランスを拠点としている)、かつ、陪審裁判での評決の基礎となった事実確認について詳細に調べる必要が出てくることから、判事はApple社の請求について判示することを断った。