スマートフォンをめぐる一連の特許訴訟の判決を丹念に追っていくと、欧州と米国の知的財産権に対するスタンスの違いが見えてくる。日本の政策にも影響してくるはずだ。著者の植木正雄氏によると、欧州は特許の“独占権”よりも“公共性”を重視する政策を取っているように見える。一方の米国は、政策の方向性を左右する判決を先延ばしにしつつも、特許の独占権を重視する可能性を残している状況にある。米国が、たとえ特定条件下に限られるとしても標準必須特許の独占権を認める方向に政策の舵を切れば、スマホなど多くのIT機器のライセンス料は跳ね上がる恐れがある(関連情報)。(Tech-0n!編集)

 Apple社対“Android陣営”の一連の訴訟において標準必須特許 (以下「必須特許」) が争点になっている。前回の記事では、米ウィスコンシン州西部地区連邦裁判所でのApple社対米Motorola社訴訟 (事件番号11-cv-00178) の事例を引き合いに、その主たる問題が、「標準化団体に対して必須特許が適正に開示されたか」、「必須特許で差止めは認められるか」そして「公正で、妥当かつ非差別的な(「FRAND」)ライセンス条件、特に、FRAND料率とは何か」に絞られることを見てきた。

米Apple社が「ライセンス料が高ければ判決に従わない」

 この178事件は、Motorola社がApple社に対してMotorola社の無線通信関連必須特許をFRAND条件でApple社にライセンスしようとしておらず、その行為は関連標準化団体が規定する知的財産権取扱い指針(「IPRポリシー」)の下での契約義務違反であるとApple社がMotorola社を訴えたものである。

 11月5日に予定されていたベンチ・トライアル(bench trial; 陪審ではなく判事による裁判)では、Motorola社が提案しているiPhone価格の2.25%というライセンス料およびその後の交渉姿勢がFRAND義務を果たしたものではなく、その行為がMotorola社の契約義務違反として認められた場合には、判事はMotorola社必須特許のFRAND料率を決定する予定であった。しかしながら、事前の準備書面でApple社は、FRAND料率がiPhone 1台当たり1米ドルかそれ以下で設定されない限り、裁判所が決定したFRAND料率に拘束されることを約束しないし、Motorola社からのライセンスを受諾することに合意しない、との意見を提出した。