メモリの研究で世界を主導
(写真:中村 宏)

 企業が「研究開発を自社だけに閉じてはいけない」と意識するようになってきたことは、半導体メモリの分野でも実感する。例えば「メモリのメーカー、マイコンのメーカー、サーバーのメーカーと組んでこんなことをやりましょう」といった提案を企業にすると、かなり前向きな反応が返ってくるようになった。

 企業が社内だけで研究開発を完結できるのなら、無理に外と組む必要はないだろう。しかし、研究開発の効率化を進めると、研究者のスキルが画一化し、専門分野以外のことが見えにくくなりがちだ。その上、今はシステム全体を考えてデバイスを開発したり、デバイスを深く理解してシステムを開発したりしなければ他社と差異化できない状況にある。企業の壁を越えて共同で研究開発を行うというのは自然な流れだと感じる。

 大事なのは、どんなテーマを設定し、どんなメンバーを集めるかという部分だ。本当に難しい問題だし、自分も模索中だ。これまで企業の外にあまり出てこなかったエース級の研究者が集まるようなテーマを設定し、なおかつ国や企業から十分な資金を集めなければならない。旗振り役のセンスや行動力が問われる。そうした能力を持った優秀な人材をシステム的に育てるのは無理だろう。高い意識を持った旗振り役に自らどんどん出てきてもらうしかない。

 企業や分野の壁を越えた共同研究が重視されるようになった背景には、インターネットで研究者たちが情報を発信・収集するようになったこともありそうだ。他分野の技術との距離感をつかんだり、誰に聞けばよいのかという研究者間のネットワークをつくったりするのに、インターネットでの情報交換が大いに役立っている。

 大学の研究者としては、民間企業がリスクを負えない研究を先行的に手掛けることで、企業と補完的な関係であり続けたい。私は「10年後に、この技術を使って世界をこう変えられる」といった姿を示していく。このとき、専門性が求められる大学の研究者だからといって、専門分野だけを見ていてはならない。システム全体を意識することが重要だからだ。私が半導体メモリのハードウエアから、OSなどのソフトウエアまで研究テーマを広げているのもそのためだ。