日本のエレクトロニクス産業は、転換期を迎えている。かつて日本企業は基礎研究から製品の生産までを社内で一貫して行う「垂直統合」を競争力の源泉としてきた。垂直統合によるすり合わせの中で付加価値を高め、製品の差異化を図ってきた。しかし、デジタル化によって製品や技術の多くがコモディティー化してしまった。将来どのような形で産業の方向を変えていくか、国を挙げて考えなければならない時期に差し掛かっている。

 先端技術の研究開発には、とにかく時間がかかる。例えば、垂直磁気記録技術にしても青色LEDにしても、基礎研究から工業化までに30年以上を要した。研究の成果が工業化に至るまでには、いわゆる「死の谷」が存在する。この谷を乗り越えないと先につながらないが、それを一企業でやるのは非常にリスクが高い。このような死の谷を乗り越える手段として、民間企業、公的研究機関、大学を巻き込んだ連携の重要性が一層高まっている。

 連携の効率を高める上で重要になるのが「拠点化」である。現在、国やJSTなどが資金を拠出して全国に先端技術の研究拠点を設け、そこに企業や公的研究機関、大学の研究者を集めている。技術者が分散して研究に取り組む場合に比べて、研究設備などの無駄を省け、異分野の交流も進みやすい。将来の企業間のパートナーシップが生まれる可能性もある。

 既に九州では、九州大学を中心とするシステムLSIの産業クラスターが形成されつつある。山形大学を中心とする有機EL、信州大学を中心とするカーボン・ナノチューブなどの拠点も着実に育っている。企業は、こうした拠点で生み出される成果を持ち帰って、自分たちの事業に生かしてほしい。イノベーションは社会的価値を創出するものであり、企業が利用しないと意味がない。イノベーションを担う主役として、企業にはもっと元気を出して頑張ってほしい。