高性能磁石の主役であるネオジム(Nd)・鉄(Fe)・ボロン(B)系磁石(以下、ネオジム磁石)では、課題である省・脱ジスプロシウム(Dy)が急速に進展した。日立金属やTDK、ダイドー電子(本社岐阜県中津川市)などがDyを全く含まないタイプやDy含有量を大幅に減らしたネオジム磁石をアピールしている(Tech-On!関連記事1)。

 ネオジム磁石は強力な磁石だが、100℃を超えるような高温環境では磁石の強さを表す残留磁束密度が大幅に低下してしまう。Dyにはそれを抑える効果があるため、多くのネオジム磁石に添加されている。例えば、使用温度が170~200℃以上と高いハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)の駆動用モータに使うネオジム磁石には6~10質量%のDyが添加されている。HEVやEVほど高温にはならないエアコン圧縮機のモータ向けでも4~6質量%、HDD(ハードディスク装置)の磁気ヘッドのアクチュエータなど向けには1~2質量%が使われてきた。

 ところがDyには深刻な調達リスクがある。産出のほとんどが中国に集中し、その中国は輸出枠を設置して供給量に影響を及ぼしている。その影響もあって2009年まで100~200米ドル/kg程度だったDyの価格は、2010年から急騰して2011年半ばには3500米ドル/kg以上に跳ね上がった。この高騰でDyの調達リスクに注目が集まった。2012年に入っても1000米ドル/kg以上で推移している。

 そんな中、Dyを全く含まないDyフリーをアピールするネオジム磁石が相次いで登場してきた。TDKとダイドー電子は、2012年7月に開催された「TECHNO-FRONTIER 2012」で、それぞれDyフリーのネオジム磁石を出展した。

図1●TDKのDyフリーのネオジム磁石
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 TDKは、従来5μ~10μmだった磁石の結晶粒径を5μm以下に小さくして、Dyフリーを実現した新製品を発表(図1、Tech-On!関連記事2)。結晶粒径を小さくすると高温時の残留磁束密度が向上することは知られていたが、製造プロセスで厳密な管理が必要となるので簡単にはできないという。

図2●ダイドー電子のDyフリーの板状
ネオジム磁石
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 一般的な焼結磁石ではなく、約800℃の熱間押し出しで製造するネオジム磁石を手掛けるダイドー電子もリング状のDyフリー磁石の量産を始めたことを明らかにしている(Tech-On!関連記事3)。既にFA機器用のモータに採用されたという。さらに、同じ材料系を使った板状の磁石も展開している(図2)