1990年に研究部門を設置したときから、ロームは「オープンにやろう」という方針を掲げて研究開発に取り組んできた。自分たちの技術を核にして、不足部分を世界中から補い、さらに足りない部分は外部の人と一緒になってつくり上げることが重要だと考えているからだ。

 今にして思えば、こうした私の信条は1980年前後に駐在したシリコンバレーで学んだものかもしれない。気軽に電話して技術について教えてもらったり装置を貸し借りしたりと、企業の壁を越えて知恵を出し合うことが当たり前の風土だった。

 SiCを使ったパワー半導体の実用化で先行できたのも、仲間作りがうまくいったからだろう。米Cree社と懇意にしていたおかげで早い段階から高品質な SiCウエハーを入手できるようになり、地元の京都大学にはSiC研究の大家である松波先生(現・京大 名誉教授の松波弘之氏)がいた。京大が培った物性の知見と、我々が半導体開発で培った知見を組み合わせることによって、いち早くSiC製のMOSFETを 実現できた。製造装置メーカーや、応用製品を持つ日産自動車やホンダといった企業との共同研究も行った。応用を意識した形でSiCのパワー半導体やパ ワー・モジュールを開発できたのは、こうした共同研究を重ねたおかげだと感じている。

 外部の企業や研究機関などの力をうまく活用するために重要なのは、世界中の情報にアンテナを張っておくことだろう。新しい研究テーマに取り組む研究者 に、まず特許と論文のマップを作らせることもある。世界にどんな研究者がいるのか、自分たちの技術には何が抜けているのか、などがハッキリと見えてくるか らだ。

 これは私が社内でよく言っていることだが、研究開発で行き詰まったとき、その場所から地続きには見えない「飛び地」に立ってみると、間をつなぐ道が急に見えてくることがある。異なる分野の研究を手掛けている外部の視点は、飛び地に立つのにも大いに役立つはずだ。