すり合わせ設計を支援するIT

 高機能化し同時に小型化するスマートフォン(スマホ)の進化を日本が支えている。発売から3日で500万台が売れたアップルのiPhone5を通じ、日本製電子部品が存在感を増しているという。この人気製品では、高速携帯電話技術のLTEに対応するため、アンテナから信号を取り出す回路が増え、通信を制御するLSIが強化された。そのため、通信を安定させる村田製作所の高周波フィルターや、消費電力を低減するTDKや東光などの電源コイルが大幅に増えており、いまやスマホの機能向上を支える部品は日本製の独壇場となっている(日本経済新聞2012年10月19日付け)。iPhone5の裏側には“Designed by Apple in California, Assembled in China”とプリントされているが、これには“Made with Japan”という文字を加えてもらった方がよいかもしれない。ただし、今後もこの優位性を保つには、膨大な数の部品を高品質で提供できる体制を維持する必要がある。

 製品であろうと部品であろうと、日本のすり合わせ能力に合致するものはエレキ部品だけのモジュラー製品ではなく、エレキとメカの両方の要素をすり合わせて実現する製品であろう。メカとエレキは通常、異なる部門で設計を担当する。したがって、高品質かつ短納期で納品しようとすれば、両部門間で課題を共有しながら、設計を検証することが必須となる。そのためには、エレキCADとメカの3D CADの設計モデルを統合してエレキとメカ双方の観点から設計を検証し、その優位性を高めることが重要になる。部品間の干渉はもちろん、異常な静電気が発生しないか、どこかでショートしないかといった検証をあらかじめデジタルモデルで行えれば、技術者にとって素晴らしい武器となるだろう。競合会社が完成品を実験室で検査していることを、そのはるか以前の設計段階で検証できるようになるからである。

図1●電子部品の詳細な3D化
ePartFinderによる詳細モデルへの置き換え。
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 これを実現したのが、ラティス・テクノロジーと図研が共同で開発し、図研から提供されている「XVL Studio Z」というソリューションである。エレキ部品を図研の電気設計用CAD「CR5000」で設計すれば、その基盤データを軽量なXVLモデルに変換するツールが無償配布されており、さらにこれを詳細な部品モデルに置き換えるサービスまで用意されている。6万点の電子部品モデルを供給する3Dモデル・ダウンロード・サイト「ePartFinder」である。この流れに沿って進めれば、電気特性まで持った、部品の高精細な3Dデジタルモデルが作成できる(図1)。一方、メカCADの3D設計のモデルもXVLに変換しておけば、両モデルの統合も可能になる。そうすれば「部品が導体か絶縁体か」あるいは「その部位の電圧はどれくらいか」といった電気特性まで保持した3Dデジタルモデルが完成する。このモデルは、エレキ特性とメカモデルの形状の双方の情報を完全に再現するので、実機がなくても電気特性の検証が可能となるのである。

図2●空間距離による静電気検証
(XVL Studio Zによる検証例)
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 例えば、2つの部品間でショートを起させないためには、その部品を絶縁体で隔離するか、十分な“距離”を取る必要がある。エレキの特性により、ここでいう”距離”は単純な直線距離にはならない。絶縁体となる部品の表面に沿った距離(沿面距離)であったり、絶縁体の穴の部分だけを最短で通る距離(空間距離)であったりする。最近は小型化のニーズも多く、これに対応してスリット(穴)を開けて電子部品の発する熱を逃がすといった措置が取られるが、穴が開けられると当然この“距離”も変化する。こうなると“距離”は直感的には分かりにくいし、計測するのにも手間がかかるが、XVL Studio Zを利用すれば、デジタルモデルを駆使してこれを半自動的に検証することができるのだ。図2に空間距離を利用した静電気検証例を示す。これまで実機を元に電子銃を備えた実験室でしか確認できなかったことが、デジタルモデルで検証可能になった。まさにデジタル実験室の実現である。このようなソリューションは、Made in Japanの製品や基幹部品の付加価値を「より薄く、より速く、より軽く」と強化するのに大いに貢献するだろう。