Apple社がインセル技術を放棄すると台湾メディアで最初に報じたのは『経済日報』(2012年12月4日付)。同紙の伝えた台湾の市場関係者は、外付けのタッチパネルを使わず、液晶パネルにタッチ機能を組み込むインセル方式を採用したことで、iPhone 5は薄型化と軽量化を実現したと指摘。ただ一方で生産の歩留まりが改善しないことで出荷がなかなか軌道に乗らない原因になっている他、タッチコントロールの反応が、とりわけディスプレイの縁付近で、先代の「iPhone 4S」よりも鈍いとの評価が消費者から出ているとした。

 その上で経済日報の伝えた台湾の業界筋は、Apple社がインセル技術をあきらめ、カバーガラス一体型の「OGS」(One Glass Solution)と呼ばれるタッチ技術を次世代モデルのiPhone 5Sに搭載すると指摘。インセル方式の現行機よりも若干ボディの厚みは増すものの、動作はもとより歩留まりも安定するとした。供給業者はタッチパネル大手の台湾TPK社(宸鴻)と台湾WINTEK社(勝華)が有力だとしている。

 インセル技術同様、OGSも外付けのタッチパネルは不要で、スマートフォンの筐体を覆うカバーガラスにタッチセンサの電極を形成する方式だ。TPK社とWINTEK社は「iPhone 4S」までタッチパネルを供給していたが、インセル技術を採用したiPhone 5でサプライチェーンから外れたとされる。そして、両社に替わって供給業者となったと見られるのはシャープ、ジャパンディスプレイ、韓国LG Display社(LGD)という日韓の3社である。

 こうして見ると、「台湾業者に復活してもらいたいという台湾メディアの単なる願望か?」とうがった見方をしたくなる。ただ経済日報によると、例えばWINTEK社のOGSは既に、フィンランドNokia社、Huawei Technologies社、ZTE社、中国Xiaomi Tech社(北京小米科技)などのスマートフォンが採用するなど実績はある。

 iPhoneについてはこのほかにも、Apple社が廉価版を出すとの観測も出始めている。これについては当社のウェブサイト閲覧には会員登録が必要2週間無料で読める試用会員も用意)に掲載した「アップル、廉価版iPhoneの13年上半期発売を検討 台湾市場で観測」で触れているのでご一読願いたいが、フォックスコンの香港上場子会社で携帯電話機のEMSを手掛けるFoxconn International社(富士康国際)が生産を受注し、2013年第2四半期からの出荷に向け、生産能力を整備しているとされる。うわさに上っている生産目標は1日当たり20万~30万台で、相変わらずとてつもない規模だ。

 かつて本コラムの「鴻海工場の暴動が示唆するもの」の回で触れたが、iPhone 5の主力工場であるフォックスコンの河南省鄭州工場では、1日当たり20万台の生産能力を最大限に発揮しないと供給不足に陥る恐れがあり、そのためには新規に20万人のワーカーを採用する必要があるのだが、実際にはほど遠い人数しか集まらず、5万、10万といった単位の労働者を前提とした生産計画が限界に近づきつつあるとの見方があることを紹介した。「生産目標が日産30万台」「歩留まりが改善しない」――iPhoneにまつわるうわさがどれも、ある種の危うさを帯びているのが気になるところではある。