また、ロケフリはインターネット回線のデータ伝送速度について、下りだけでなく上りも重視するアプリケーションだった。これにはNTTグループが推進する光ファイバ通信の価値が高まると判断していただき、テレビCMなどを手掛けてくれた。こうした動きは、大きな助けとなった。

海外でW杯の日本戦を観戦

観戦の様子
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 続いて、(2)の新機種の開発である。LF-PK20とLF-BOX1の2機種の開発を進めた。中でもTV-BOX1は、これまでは専用端末またはノート・パソコンなどのモバイル端末で映像を見ることしかできなかったのだが、通常のテレビでも見ることができるようにしたものだった。これにより、世界で初めて家の中ではアンテナのない部屋にもテレビを設置でき、海外ではパソコンではなく現地の放送と同じようにテレビで日本のテレビ放送を見ることできるようになった。多くの海外赴任者に、とても喜ばれたことを記憶している。

 LF-BOX1を発表する前に、香港大使館にロケフリを設置し、あるイベントを開催した。それは、香港在住の日本人が、2006年にドイツで開催されたサッカーW杯の日本戦を観戦することだった。当時はまだ地上デジタル放送ではなくアナログ放送で、日本はNTSC方式、欧州はPAL/SECAM方式というように表示方式が異なっていたが、これらの方式を自動変換する機能を搭載することで、問題なくPAL方式の地域で、日本のNTSC方式のテレビ放送を楽しむことができるようになった。これは放送でなく、通信であるから実現できたことだ。

「LF-PK20」(右)と「LF-BOX1」(左、写真:ソニー)
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 2006年当時は、ロケフリの基本コンセプトとして、盛田さんが家庭用VTRを発売するときに使われた“Time Shift”にちなんで“Place Shift”というフレーズを使っていた。実際に、LF-BOX1の工業デザイナーは、このコンセプトを生かした素晴らしいデザインを生み出してくれた。現在のテレビの主流である光沢感のある「ピアノブラック」と、Place Shiftの言葉通り、前後にずれたデザインが特徴だった。私が後にも先にも、唯一、デザインを一発で了解したのだった。

 限られたリソースの中で多くの業務が殺到したため、これらの2機種の実現にはかなりの困難を強いたわけだが、ロケフリ部隊の部下たちは、何とかやり遂げてくれた。2006年9月6日に新商品発表会を開催し、2機種同時ではなかったが、LF-PK20が2006年10月20日、LF-BOX1が1週間遅れとなる同年10月27日の発売にこぎ着けたのだった。