ロケフリについての記載は、直後にあった。「話は変わりますが、ニューヨークで東京の放送を見ましょう、というLocation Free TVが経産省主催の『ネットKADEN2005大賞』を受賞したことは本当に嬉しいことです。あれは素晴らしい改革だったと思います。昨年末ニューヨークに行く時に1台持っていって見ましたが、かつて出張先のホテルで見られる日本のテレビ番組といえばNHKだけだったにもかかわらず、日本の各局で放送中のテレビ番組をリアルタイムで見ることができるということは本当に素晴らしいことです。開発責任者の前田さんを始めとする、当製品の開発に携わった皆さんに、この場を借りて改めて敬意を表したいと思います」(原文ママ)とのコメントをいただいた。

 私自身、大賀さんからのコメントに対して、非常に恐縮したことを覚えている。一方で、開発しているモノが動いた時の感動と同時に、尊敬するトップからこのようなコメントをいただけることはエンジニア冥利に尽きることだと感じた。これこそが、社員のモチベーション向上につながるのである。まさに大賀さんは、ロケフリの最大の理解者であり応援団長でもあった。

米国でSlingboxの後塵を拝すことに

 大賀さんからこのような応援はあったものの、ロケフリ事業を取り巻く状況はますます悪化していった。連載第6回の最後に触れたように米国市場でロケフリの普及に奔走してくれた米国担当者の退職に加え、米国のベンチャー企業Sling Media社がロケフリと同様のコンセプトを打ち出した「Slingbox」を市場投入して米国市場を席巻し始めたのである。一方でソニーは、米国市場でロケフリをパソコン「VAIO」の周辺装置と位置付けたままであり、新しく市場を創る勢いはまったくない状況だった。

 こうした姿勢は、米国ラスベガスで開催される「International CES」の展示ブースにも現れていた。Sling Media社の展示ブースはソニーの約1/4と小さいものの、そのすべてがSlingbox関連の展示であった。これに対して、ロケフリの展示はソニー・ブース全体の1コマ(机2個分)程度であり、米国における知名度は残念ながら完全にSlingboxが勝っていたのは、誰の目にも明らかだった。

 Sling Media社は設立から4年後となる2008年に、米衛星会社EchoStar Communications社に約400億円で買収されることとなる。現在でも、「BESTBUY」などの量販店や携帯電話機の販売店でSlingboxは販売されている。なお、Sling Media社は、2006年に日本に進出したのであるが、我々が常にロケフリの話題をまき続けていたこともあり、ロケフリの牙城は守ることができた。