世の中にない新規商品として産声を上げた、隔地からテレビ番組を楽しめる「ロケーションフリー」(以下、ロケフリ)。ソニーの社内で混乱をよそに、経済産業省が2006年に設立した「ネットKADEN大賞」を受賞したことは、連載の第6回で紹介した。今回は、まず、商品を企画・開発する上で忘れてはいけない重要なことを記しておきたい。

ネットKADEN大賞を受賞したロケーションフリーベースステーションパック「LF-PK1」(中央、写真:ソニー)
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 それは、学生時代にソニーの創業者である井深さん(故・井深大氏)や盛田さん(故・盛田昭夫氏)に請われて入社され、創業者と共にソニーを築き上げられ、2011年4月23日に逝去された大賀さん(故・大賀典雄氏)とのエピソードである。もはや説明するまでもないが、大賀さんはCBSソニーの設立に始まり、CDの開発・立ち上げを筆頭に数々の新規商品を世に送り出し、輝かしい実績を残された方である。これらの経験からプロダクト・プランニング(商品開発)の重要性を説いておられ、常日頃から「心の琴線に触れる商品を作らなければいけない」と言われていた。先見性を見る力はすさまじいものがあり、家庭用ゲーム機「プレイステーション」の最大のサポーターでもあった。

 その大賀さんが、1ユーザーとして楽しんでいただいたソニー商品がロケフリであった。日本の自宅に加えて、米国のハワイやニューヨークの別宅に設置し、奥様と共に楽しまれたのである。私自身、ほぼすべての経営陣にロケフリを渡したが、大賀さんが最も使われたユーザーだったと思う。後にご紹介するが、ロケフリそのものに導入した技術にも良く精通しており、取締役を退任された後も商品企画への思いは失われていなかった。その証拠に、私自身がソニーで最後に出願した特許は、大賀さんとの共同出願なのである。

大賀さんから激励コメント

 ちょうどロケフリがNET家電大賞を受賞した時に、ソニー社内ではロケフリ事業そのものからいつ撤退してもおかしくない状況だった。こうした状況に対して、大賀さんは、2006年2月20日に自身のWebサイト「燦」で、激励ともいえるコメントを掲載していただいた。

 この日のコラムでは、まず、米Westinghouse社が東芝に買収されたことに衝撃を受けて、「ビジネスが先細りするとソニーも同じ道を辿る」と警鐘を鳴らされた。だからこそ、「将来を見通したプロダクトプランナーを育て、絶えず新しいプロダクトを市場に供給していかなければならない。プロダクト・プランニングがしっかりしていれば、会社がどうにかなることはありません」と商品企画の必要性を強く説かれていた。

前田 悟(まえだ さとる)
エムジェイアイ 代表取締役
1973年、ソニー入社。電話回線を介して情報をやりとりするビデオテックスやコードレス電話機などの新商品の企画・開発に携わる。世界初の無線テレビ「エアボード」や遠隔地からテレビ番組を楽しめる「ロケーションフリー」などを開発。2007年にケンウッドに移籍し、2008年にJVC・ケンウッド・ホールディングス執行役員常務。2011年6月に退任。エムジェイアイ株式会社設立、製品企画・経営コンサルタントを行う傍ら、複数企業の社外役員・アドバイザーも務める。 Twitterアカウント:@maedasatoru