既存のビジネスに陰りが見える中、新規事業に取り組む企業が増えています。進出分野の有力な候補の1つが医療機器です。ただし、医療機器は人の生命に直結する分野ということもあって法規制や規格が多く、新規参入のハードルは決して低くありません。技術力だけではなく法規制や規格の知識、それらに対応するための体制が不可欠です。

 少し前の話になりますが、『日経ものづくり』2011年11月号の特集記事「医療機器への挑戦」では、医療機器ビジネスに参入する複数の企業を取材しました。ある中堅メーカーで医療機器の新規参入や製品開発を命じられた技術者は、初めに大学の医学部が開設している社会人向け講座に申し込み、医学の基礎を身に付けました。そうした基礎がなければ、法規制や規格への対応や医療関係者との対話、製品の開発・生産などもままならないからです。同講座の受講から5年後の2011年、このメーカーはとうとう医療機器の量産開始にこぎ着けました。

 医療機器に関連した各種サービスを提供するUL Japan(本社三重県伊勢市)によれば、医療機器ビジネスへの参入を目指す企業が急速に増えているそうです。大きな市場は日本や米国などの先進国ですが、これら先進国では既存の医療機器メーカーが強く、市場規模の拡大もそれほど見込めないので、「中国や東南アジアなど成長が期待できる市場への参入を検討する企業も出てきた」(同社医療機器部部長の肘井一也氏)ことが最近の特徴です。中国や東南アジアは現時点で法規制や規格が先進国ほど厳しくないこともそのような動きに影響しているようです。しかし、そうした国々が欧州などの厳しい法規制や規格を一気に導入する可能性もあるため、いずれの市場を目指すにしても楽な道ではないでしょう。

 医療機器の目的を鑑みれば、厳しい法規制や規格が多いのは当然のことですが、それが障壁となって医療機器分野に日本の企業が持つ技術力が十分に生かされていない現状は、非常に残念なことです。参入を促進するために法規制や規格を不必要に緩めるようなことは望みませんが、参入意欲のある企業がそうした知識を入手しやすい環境を整える必要は感じます。現在は、各企業の担当者が独自に手探りで情報を収集していることが多いようです。日経ものづくりは、今後もさまざまな形で参入を支援する情報を発信していく方針です。