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エディターズ・ノート

サチった市場でこそ踏ん張る

  • 大下 淳一=日経エレクトロニクス
  • 2012/12/14 10:00
  • 1/1ページ

 毎年、この時期になると「そろそろ年賀状を書かないとなあ」と思いつつも、どうしてもクリスマスが過ぎた頃にならないと尻に火が付きません。結局、時間切れになってスーパーでイラスト付き年賀状を買い、サルとかイノシシの脇にちょこちょこっと挨拶を書き入れてお茶を濁す。このパターンを毎年繰り返しています。でも今年は「あれを買って、ちょっと気合いを入れた年賀状を作ろうかな」と思っているプリンターがあります。セイコーエプソンが2012年9月に発売した、従来機比で約40%もの小型化を実現した「カラリオ(Colorio)」の新シリーズです(リリース)。このサイズなら狭い我が家にも置けるし、見栄えもキュート。

 こんなことを思ったのは、先日、セイコーエプソン社長の碓井稔氏にインタビューする機会があり、この製品に懸ける強い思いを聞いていたからでした。同社が今回の新シリーズを開発した背景には、プリンター市場がこの先それほど大きく伸びないという危機感を抱いていることがあります。同社は今、主力事業である民生向けプリンター以外の市場を新たに開拓しようと努めており、その開発に投じるための時間と資金が必要な状況です。今回、従来機比で約40%の小型化という高いハードルを設定したのは、「他社が容易には追いつけない差異化を実現することで、プリンター市場での優位性を高め、そこで得た資金と時間を新事業に投じるため」(碓井氏)。次に向かうためにこそ、これまで基盤を置いてきた事業に最大限の力を注ぐのがエプソンの流儀というわけです。

 インタビューの中で碓井氏は、「究めることの大切さ」を再三強調しました。プリンターであれ何であれ、新しい製品を開発するに当たっては、自分達の理想を最後まで追ってこそ、その挑戦に価値が出てくる。「中途半端ですぐにキャッチアップされるような目標では、失敗したときにそれが命取りになる。失敗が許されるのは、他社には挑戦さえできないような高いハードルに挑むときだけだ」と碓井氏は語りました。例えば、同社が開発を進めているヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)(Tech-On!関連記事1同2)。既に製品を市場投入していますが、これまでのものは最終完成形ではないとのこと。将来的には、眼鏡のように違和感なく装着できる形態を目指すとの意気込みを話してくれました。

 プリンター事業での優位性を固めつつ、セイコーエプソンが新たに向かう先。その方向性は実に多様です。HMDや、スポーツ・健康分野に向けるウエアラブル機器(Tech-On!関連記事3)などの民生機器に加えて、同社は今後、産業用途の機器事業を大きく育てる考えです。2012年12月初旬の事業説明会では、ロボットやインクジェット装置などの産業用機器事業に関して、年間売上高を現状の100億円規模から「3~5年以内に300億円、さらに将来は1000億円に伸ばし、エプソンを支える事業の一つにする」(碓井氏)との目標を語りました(Tech-On!関連記事4)。

 事業の多様化を進めながらも、同社は“省・小・精(省エネルギー、小型化、高精度)”という、同社が得意とする技術を生かせる領域にフォーカスしています。この方針がぶれないことの重要性も、碓井氏がインタビューで強調したことの一つでした。「他社には挑戦さえできないような高いハードルに挑む」ためには、独自の技術を生かせる領域で勝負しなければならない、というのがその根拠です。

 国内民生機器メーカーが業績不振に苦しんだ2012年は、コスト削減やリストラの話題ばかりが目立ちました。セイコーエプソンも2012年度は純損失を計上する見通しで、苦しい状況にあります。そんな中でも、国内メーカーの経営トップが、こちらが圧倒されるような勢いのある言葉を発してくれたことは、我々にとって救いでした。碓井氏へのインタビューの詳細は、日経エレクトロニクス2012年12月24日号に掲載予定です。ぜひ、ご一読いただけましたら幸いです。

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