「コンシューマー機器は、1年で値段が半分になる。そのような低収益市場で、我々の貴重なエンジニア・リソースを消耗させるわけにはいかない」。

 これは、米アナログ半導体メーカーであるLinear Technology社 会長のRobert Swanson(ロバート・スワンソン)氏の言葉です。同社は2005年、売り上げの約30%を占める重要領域である民生機器(コンシューマー機器)向け製品を、段階的に縮小させるという決定を下しました。同社は「リポジショニング」と呼んでいます。

 これにより、テレビやスマートフォンといった民生機器/端末向け部品事業を減らし、その代わりにインフラや産業機器、自動車向け部品事業を拡大するという、大幅な戦略転換を打ち出しました。当時の売上高は10億5000万米ドル(2005年)。そのうち、民生機器部門が占める割合は28%と、3億米ドルを超える規模でした。その巨大事業から、手を引こうというのです。

“コンシューマー縮小”の衝撃度

 売り上げの30%を占める事業から撤退する――。これはそう容易なことではありません。しかも、競合他社が軒並み民生分野への注力を拡大していく中、一人背を向けて、別の方向へ歩き出す。なかなか想像しにくい経営判断です。

 それをあえてやろうと言い出したSwanson氏の狙い。それが冒頭のコメントに表れています。スマートフォン端末などの市場では、せっかく貴重な技術者のリソースを使って開発した製品(部品)であっても、半年、または数カ月後には大幅な価格低減要求に応じなければならない。顧客の受注をつなぎとめるためには、利益をぎりぎり、もしくは赤字にするような価格設定にせざるを得ない。そのうち、製品の特性向上よりもコスト減ばかり考えるようになる――。Swanson氏は、「そのような状況は耐えられない」ものだったと語ります。「コンシューマー製品分野では、いくら我々が革新的な製品を投入しても、古い世代の技術を使った安価な製品が採用されてしまう。高機能の新製品よりも、値段が半分の従来製品が優先される」(同氏)。

 Swanson氏は、ある時のミーティングで、社員にこう語り、決別を宣言しました。
「テクノロジーの進化が止まっている市場で、価格競争をするのは正しくない。我々は、すでにある市場ではなく、次に成長していく分野に挑戦すべきだ」。