伝統的通信企業にApple社はどう映る

 Apple社は伝統的な通信機器メーカーではない。事業基盤は、洗練されたユーザー・インタフェースを支えるソフトウエア技術であり、機器と連携させたコンテンツ販売サービスである。通信技術は、スマホ事業を支える多様な要素の一つに過ぎない。同社は、通信技術を買収によって手に入れている。

 伝統的な通信業界にいる企業はApple社をどのようにとらえるのか。長期の安定収益を約束してくれるはずだった先行開発投資の価値を大幅に下げる存在に映るはずだ。冒頭で挙げたApple社とMotorola Mobility社の係争では、Motorola Mobility社は機器の価格の2.25%のライセンス料を求めているという。Apple社が「リーゾナブル(妥当)」と主張する額より1ケタ高い。これほどまで「リーゾナブル」の認識に開きがあるのは、Apple社が伝統的な通信機器メーカーとは、まったく異なる事業モデルを持ち、機器が単なる携帯電話機ではないからだと記者は考える。

 ところで1990年代、InterDigital社はMotorola Mobility社の前身である米Motorola社を特許侵害により提訴し20億米ドルを求めていた。ベンチャー企業のInterDigital社は負け、Motorola社は通信業界の巨人としての強さを見せつけた。今年、11月末にMotorola Mobility社は、前述の通りMicrosoft社に敗れた。Apple社との係争の結果はどうなるのだろう。通信は一要素に過ぎない“グローバルIT”業界にあって、Motorola Mobility社はもはや巨人ではない。そんな時代感を映すものとなるのか。Motorola Moblity社をIT業界の巨人である米Google社は買収しており(関連記事5)、決戦の場はグローバルIT業界に移っていると考えるべきか。2012年は、特許政策や特許を取り巻く事業環境への注目を促す1年だった。