2012年は、スマートフォンをめぐる特許訴訟に注目させられた1年だった(関連情報1)。特に米Apple社と韓国Samsung Electronics社の係争は、8月に日米で判決が下り大きなニュースとなった(関連記事1)。Apple社と、Android陣営の一つ台湾HTC社の訴訟も11月に和解の発表があり、話題をさらった(関連記事2関連記事3)。Tech-On!で「グローバル知財経営のすゝめ」を連載している知財分野の専門家である植木正雄氏(スターパテントLLP)は、これらの訴訟に加えて、Apple社と米Motorola Mobility社の係争に注目している(関連記事4)。標準規格に準拠するために欠かせない「標準必須特許」に関する課題を浮き彫りにしているからである(関連情報2)。

「Microsoft対Motorola訴訟」の判決が出た

 11月30日、スマートフォン関連ではないが、米Microsoft社とMotorola Mobility社との特許訴訟の判決が米国ワシントン州の地裁で下った。無線LAN規格(IEEE802.11)や画像圧縮規格(H.264)の標準仕様に準拠させるために必ず使う技術にMotorola Mobility社が持つ特許が使われており、同社とのライセンス契約に至っていないMicrosoft社に対して、標準規格に基づくゲーム機「Xbox 360」の販売差し止めを求めていた(Microsoft社の訴えに対する反訴として)。判決は訴えを認めないもので、Motorola Mobility社の標準技術の特許による独占権を制限する内容といえる。

 この裁判での注目点は、標準規格に準拠させるために必ず使う特許(標準必須特許)権の“強さ”について、裁判所が考える適切なレベルだ。先にスマホとは直接関係しない裁判を挙げたのは、Apple社とMotorola Mobility社の係争におけるポイントも、標準必須特許の強さにかかわるためである。米国政府は、基本的には特許権を強くするプロパテント政策を維持している。この方針に従い、また特許権の基本に基づけば、標準必須特許にも強い独占権を認めるとの考え方が一つある。一方、誰もが使えるように公開している標準規格には“公共性”があるといえ、特許技術といえども独占を制限する(誰もが使えるように共有する)べきとの考えも成り立つ(詳細は関連記事4を参照)。