この点を前田氏に問い掛けると、「『前田はいつも勝手だから、やらしとけ』と思われていたんじゃないですか」と破顔し、こう付け加えました。

 「楽しいことって、必ず多くの協力者が現れるものじゃないでしょうか。だって、感動したり、面白かったりするから。アイデアは、商品開発で最も価値がある。最近は、アイデアを考えるクセをつける環境が技術者の周囲にないのかもしれませんね。勝手プロジェクトの打ち合わせをしたくても、会議室を使うことすら許されない雰囲気もあったりするから」と前田氏。

 「作りたいから作る」。これを古き良き時代のノスタルジーとして、片付けるのは簡単です。「だって、今はそんな時代ではないから」。それもそうかもしれません。

誰にでも「ひらめきの瞬間」は訪れる

 前田氏は、インタビューの最後にこう問題提起しました。「企業は社会のためになるから存続しています。家電メーカーにとって社会のためになることは、今は存在しない生活スタイルを提供することです。それが目的であるべきでしょう。利益は、その結果でしかない。この目的と結果が逆転してはいないでしょうか」。

 枯渇していたアイデアが、よみがえる時。それは、本当にちょっとしたことがキッカケなのかもしれません。恐らく、別に天才的な発想力を持つ人ではなくても、多くの人々には必ずひらめきの瞬間が訪れるからです。

 ただ、ちょっとしたキッカケを確実にとらえられる人はそう多くない。そのためには、日頃からアンテナを高く上げて、自ら行動を起こす準備や研鑽が必要。これは、これまでの取材の中で多くのアイデアマンが話した言葉に共通しています。

 そうは言っても、最も難しいのはこの部分であることも事実。だからこそ豊かな発想力は貴重な資源だったりするわけで。やはり、悩みが尽きないまま、また一つ年齢を重ねることになりそうです。