多忙な中、ありがたいことに時間をいただき、ホテルのラウンジで聞いた話は刺激的でした。前田氏は開口一番、こう言いました。「アイデアを考え続けるクセをつけること。これが一番大切だと思うんです」。

 なるほどと思いながらも、また疑問が生じました。「なぜ、考えるクセがついたのだろうか」。この問いをぶつけると、前田氏は若いころの話を始めました。

 「商品開発のプロジェクトが終わりますよね。すると、試作などで使った部品が余るんです。次のプロジェクトが始まるまで、自由な時間が少しできるでしょう。その時間を使って、何かモノを作ってみる。もちろん、『勝手に』ですよ。だって、作ってみたいから」。

 本当にさまざまなモノを作ったそうです。まだ珍しかったパソコンを複数台つなげた分散処理による「かな漢字変換システム」、4分割したテレビ画面にストロボのように画像を順次表示していく装置、一般人が使えるようになって間もない時代のインターネットを使って、社内メールのシステムにリモート・アクセスするソフトウエアなどなど。今となっては、既に世の中に存在するものですが、当時としては斬新な取り組みでした。

どうして、勝手なことができたんですか

 もちろん、これらの勝手なものづくりの成果物は、そのほとんどが商品として結実していません。でも、「作りたいから作った」。面白そうだから、手を動かしてみる。分野は違いますが、クラタスの制作者の言葉と同じです。前田氏は、これを実践できた理由を「発想する喜びが感じられたから」と説明しました。「喜び」を得られたのは、一緒になって面白がってくれる仲間が周囲にいたからです。

 「『こんなものを作りました』と当時の事業部長に話すじゃないですか。すると、事業部長はうれしそうに、その足ですぐに開発現場まで来る。『いいねぇ。面白い』と言って、ほめてくれるんですよ。そういうことが積み重なって、周囲を喜ばせようと常に新しいものを考えるようになったのだと思います」。

 エアボードを発想するまでには、やはりさまざまな体験と、発想につながる多くのタネの入力があったわけです。もちろん、思い付いたモノを勝手に作れたとしても、発想をビジネスとして具現化するプロセスは、なかなか一人では実践できないかもしれません。大きな企業であるほど、難しさは増します。

 ―― どうして前田さんは、勝手にやることを許されたんだと思いますか。