製造業を待ち受けていた2つの罠

図1●六重苦の中、待ち受ける罠
1つはガラパゴス化の罠であり、
もう1つはコモディティ化の罠である。
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日本の貿易赤字は2011年3月以降、19ヵ月連続の赤字になり、常態化している。貿易黒字を牽引してきた製造業が、リーマンショック、円高、震災といった中で、急速に海外に製造拠点を移していることが主因であるといわれている。さらに、そこに世界第2、第3の経済大国である中国・日本の“政凍経冷関係”が暗雲をもたらす。そもそも、21世紀に入り、日本の製造業には2つの大きな罠が待っていた。1つはガラパゴス化の罠であり、もう1つはコモディティ化の罠である(図1)。今回と次回では、この罠をいかに避けて、グローバル化の時代に、あえて日本国内で設計し製造する拠点を置くなら、どうすべきかを論じてみたい。

製品のガラパゴス化とは、日本固有のユーザーニーズに対応しすぎて、製品が独自進化を遂げ、海外では通用しなくなることを言う。バブル経済の崩壊前は、日本で実現した品質や機能の製品は、コストと機能のバランスがほどよく取れており、欧米でも広く受け入れられた。21世紀になって新興国との価格競争が厳しくなると、多くの日本企業は付加価値の高い製品開発へとシフトし、価格競争を避けようとした。しかし、世界最先端となってしまった現代の日本製品は価格と機能が釣り合わず、先進国でもなかなか受け入れ難い。例えば、液晶テレビでは、それなりの画質で見える大型の画面があれば、先進的な機能は必要ない。また、新興国に日本の製品から機能を落として安く売ろうという戦略もあまりうまくいっていない。新興国ニーズにいち早く対応した韓国企業にシェアを奪われているのが現状だ。

もう一方のコモディティ化とは、製品を差別化してきた機能や品質力が失われ、価格や店に商品があるかないかを基準に購入が行われることをいう。デジタル家電製品では、モジュール化が進展し、電子部品を組み合わせることで、どこの企業でも同じ製品が生産できるようになった。市場の参入障壁が下がり、製品価格は著しく低下し、日本のデフレの主因の一つともなった。結果、企業は量産のための先行投資と激しい価格競争に苦しむことになった。製品だけでは差別化できなくなる結果、やがてブランド力も失っていく。実際、イギリスWPP社による2012年のブランド価値のランク付けレポートによれば、ソニーやパナソニック、シャープはサムスンの後塵を拝してしまった。