ものづくり戦略のあるべき姿

図2●製品固有の規模と周期による市場分類
(若林氏の資料を基に筆者作成)
市場規模が1億台以下、製品の需要変動が
3年以上の分野では、日本企業は健在。
[画像のクリックで拡大表示]

日本の製造業に何が起こっているのであろうか。フィノウェイブインベストメンツ(本社東京)代表取締役社長 CIOの若林秀樹氏は、製品ごとの市場規模(数量での規模であり、金額ではない)や需要変動の周期、といった産業に固有の規模と周期といった指標を用い、産業ドメインを定義することを提唱している(「ドメインの定義と経営重心に関する研究」、日本MOT学会研究発表2012)。需要変動の周期で、事業の特質が変わり、生産方式が変わる。技術や製品の種類によらず、市場規模、つまり、ビジネスボリュームが事業形態を決めるという。この仮説に基づいて産業を分類すると図2のようになる。かつて、コンピュータ、通信、家電、ゲームという業界が存在していたが、現在では、その垣根は急速に低くなり、産業を分類する切り口が変化している。

日本の電機産業は、その全盛期に、川上から川下まですべて自社で手がける垂直統合型のビジネスモデルで隆盛を築いた。しかし、アップル社のiPhoneやiPodのようにモジュラー化されたデジタル家電製品では、各社が強みを持ち寄って製品を開発する水平分業型のビジネスが優位となっている。若林氏によれば、垂直統合から水平統合に業界構造が変わる製品は、ビジネスボリュームは数億個規模に増大し、需要変動は数年以下に短期化、製品のメカトロニクス構造はエレキ化されるという。製品の種類によらずエレキ化が進展すると、製品構造は擦り合わせ型からモジュラー型に変化する。

逆の見方をすると、市場規模1億個以上で需要変動が3年以下になると、水平分業化が進むということになる。この視点で図2を見てみると、PC、携帯、TVでは水平分業化が進展し、日本企業は厳しい立場に置かれている。一方、産業機械や自動車、建機、各種製造装置や社会インフラなどの分野は市場規模が1億台には届かず、製品の需要変動も3年以上と長い。このような分野では、日本企業は健在である。おそらく、日本企業の長期的視点での経営、すり合わせを得意とする組織能力が、需要変動の期間が長い産業、市場規模の比較的少ないものを得意とする体質を生み出したのではないだろうか。だとすれば、本社サイドは、こういった分野の製品に特化して、収益力を高めつつ二の矢三の矢を考えればよい。設計製造の現場サイドは、それぞれの拠点で製造することの比較優位性をどう実現するのかを考えればよいことになる。

この際、ものづくりITは有効な武器の一つになるだろう。これがガラパゴスとコモディティの罠を回避する処方箋にもなる。