設計面からも変種変量に対応

 こうして「変種変量生産」に対応できるようになったのは、例えば、エンジンの構造部品の1つであるシリンダブロックの冷却通路の方式に「クローズドデッキ」と「オープンデッキ」の2方式があったものを後者に、同様に「ベアリングブロック」と「ロアブロック」の2方式も後者にそれぞれ統一したからだ。設計の初期段階から構造と工程をワンセットで考えることで、共通化しなければならない製品のハードポイントを最小化したのである。これにより、搬送基準や加工基準も統一化でき、同じラインで複数の商品が流せるようになったという。

* ハードポイント 同一生産ラインで加工したり組み立てたりするために共通化しなければならない「生産技術上の固定要素の一種」のこと。

 一方で各社が共通化しているとされるボアピッチ(隣り合うシリンダ同士の中心間距離)は、性能追求のために排気量の大きさによって変えることにした。ここでも固定要素と変動要素を設計と工場が一体になって明確にしていることが分かる。

 スカイアクティブエンジンの開発に当たっても燃焼コンセプトが、排気量などの違いによってばらばらだったのを共通化した。これによってヘッド系、ピストン系、動弁系などのエンジンの構成技術の共通化を推進し、センサ系などの制御で177種類あったコンピュータ・プログラムは原則1種類になった。開発スピードは数段高まった。

 マツダの取り組みは、設計という上流からのアプローチで設計主導により自らの生産プロセスを変えていくという点にも特徴がある。これによって製品の多様化と部品点数の削減という二律背反を克服できた。簡潔に言えば、いったん設計した後に生産現場の都合などによって設計変更をしなくてもよい効率的な設計ができるようになったということである。コスト削減のメリットは大きい。現に、CX-5もアテンザも1台当たり15万円の利益改善効果があり、これにより1米ドル=77円でも利益が出せる体制ができた。

 今まで述べたマツダの取り組みは、車格や排気量の違いを超えて各ユニットの基本コンセプトを共通化して標準構造にし、相似形の設計にすることで少ない投資で多様な商品を生み出していく発想でもある。「この設計では工場で生産対応できない」とか、「少量生産では利益が出ない」といった「造り手側」の勝手な理屈を否定する考え方でもある。設計や生産現場での単なる業務の効率化やカイゼン活動とも違う。車造りの思想・哲学の大きな変更と言えるだろう。意味的価値の創出には欠かせない改革であり、制約条件を抱えながら多様化するグローバル市場に対応していくためには欠かせない発想であろう。

■変更履歴
記事掲載当初、「アテンザ」の発表日に誤りがありました。正しくは,2012年11月20日です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。