バトンタッチからコンカレントに

 この構想ではBクラスからC、Dクラスの車までまとめて企画し、SUVでもセダンでも同じストラクチャを使うことになる。例えば、フレームワークや板厚は全て固定し、つなぎ方の構造も共通化する。ストラクチャが一緒なら実験の解析データも共有化できるといった具合だ。同時に車種によって「味付け」を変えるために、固定部と変動部を明確にし、固定部ではコストを重視した設計にし、変動部ではその車の個性が出る設計にする。この固定部と変動部を明確に分けることも一括企画のポイントだった。

 一般的に競争力を最大化するには車種・仕向け地ごとにそれぞれ最適部品を造った方がいいが、それではスケールメリットがないとコスト高になる。しかし、量産効果を出すためだけに大量生産する考え方は、顧客とは何の関係もない、自動車メーカーの勝手な都合によるものという考えがマツダの中で広がっていった。多品種少量でも開発や生産の効率を高めるには仕事に対する考えやプロセスを抜本的に変える必要があったのだ。こうした考えが意味的価値づくりを生む源泉となっている。

 設計と生産も協力し合った。従来はボディのプレス用の基準ピンは位置が固定だったが、設計が変動要素にしてほしいと生産に依頼し変更した。固定化したのはピンの太さだけで、ロケータの位置を動かすことで対応した。これも一種のブレークスルーで、設計と生産が互いに協力し合ったので知恵が出た。

「この取り組みはコンカレントエンジニアリングを極めようとする改革です。従来はバトンタッチ方式だったのを、企画・開発・生産をいっぺんに重ね合わせました」と金井副社長は語った。

汎用機でフレキシブル生産

 このコモンアーキテクチャー構想と連動しているのが「フレキシブル生産」だ。例えば、シリンダブロックなどを機械加工するライン。そこには14台の汎用マシニングセンター(MC)がずらりと並ぶ。モノづくり革新の前までは専用機であるトランスファーマシンで加工していたのを、汎用機による「ランダム生産」に切り替えた。専用機は1つの部品を素早く削る大量生産には適しているが、変種変量への対応には弱いからだ。専用機では対応機種が限定的でかつ、刃具や治具を交換して再プログラムする段取り替えに時間が要するが、汎用機だとその必要がなくなった。さらに汎用機を配列した工程は、1台止まっても残りの13台が動いているのでそこで対応できる。正味稼働率が高まるということだ。

 汎用機によるフレキシブル生産を採り入れた結果、機械を止めることなく、1ラインで多様な部品を製造できるようになった。ガソリンかディーゼルかを問わず、スカイアクティブやV6エンジンなど13種類のエンジン部品を1つのラインで流している。しかも従来の専用機ラインだと45工程あったのを4工程にまで減らすことができた。内面研削のボアホーニングの仕上げも3工程から1工程に減らした。こうした取り組みの結果、製造リードタイムは大幅に削減され、設備投資額は従来比で70%減となった。