常識を覆す「一括企画」

 マツダのモノづくり革新とは一体どのようなプロジェクトなのかをこれから説明する。それは2006年にスタートし別名「一括企画」とも呼ばれている。2015年度末までの長中期計画を策定していく中で、まず、マツダがどんな会社になっているべきかを議論するところから始まり、そこからブレークダウンして商品に織り込む技術ユニットの水準はどの程度にするのかということまで話し合った。そこで誕生したプランの1つがスカイアクティブエンジンの発想だった。エンジンだけではなく、変速機やボディも含めても全マツダ車を世界一の技術水準に高めていくことを練り、数値目標まで定めた。その第1号車を2011年に発売することや2015年までに開発する車は同時並行で開発していくことなどが決まった。将来的に求められる車の価値を想定し、今の設計に反映させるという点でも革新的と言えるだろう。

 自動車業界では車種ごとの開発エンジニア(マツダでは主査、トヨタではチーフエンジニアなどと呼ぶ)がいて、車種ごとの個別最適開発方式が主流だったが、2011~2015年に出す車をまとめて共通に開発することにした。だから、一括企画なのである。これまでの常識を覆す手法だった。

 通常、自動車の開発においては、目標達成のために、現在保有する技術を再確認して使えるものやこれから育てていく技術が何かについての検討がまず必要となる。2011~2015年に出す車を同時並行で開発するには、そうした検討を従来通りの企画→開発→生産といった順番で実施していてはとても間に合わないし、予算も人手も足りない。マツダは、同プロジェクトの開始に当たって、仕事の進め方全てを変えるべきと考えたという。

 総指揮を取る金井誠太副社長はこの取り組みの意義や狙いについてこう語った。

「単に目に見えるモノを共通化するというよりも、思考プロセスや設計構想、それを具現化する生産プロセスを共通にする意味合いが強い改革です。外見上は大小の違いはあっても、相似形の設計にしていれば、同じプロセスを活用できる。例えば、衝突安全のテストをする場合でも、車体のフレーム構造を相似形に設計しておけば、衝撃の伝わり方も相似形になり、もし強度に問題がある場合は、問題の箇所もすぐに特定しやすくなる」

 それまでもマツダでは部品の共通化などを進めていたが、金井副社長は「3年かけて新車開発が終わって次の新車開発をスタートさせる際に技術や部品などをこのまま継続して使っていくか、あるいはリニューアルするかをいちいち判断し、発売したばかりの新車をベースに次の新車のことを考えていました。右肩上がりの時はそれでもよかったが、今そんなやり方をしていてはリソースが足りないし、開発スピードも遅くなる」と言う。

 この結果、開発コストは「足し算」になって高くついた。一括企画では将来必要になる技術水準までを予測して、2015年までの全ての商品開発を同時に展開していくことにしたのだ。マツダではこれを「コモンアーキテクチャー構想」とも呼んでいる。