独自の開発思想で意味的価値を

 マツダが目指す価値づくりとは、まさに意味的価値の創出なのである。すでに成果も現れ始めている。2012年2月に新発売したSUV「CX-5」のヒットだ。同年10月末までに国内で3万7000台を販売し、そのうち8割が新しい「スカイアクティブ」エンジンを搭載したディーゼル車だ。2011年の国内市場全体でディーゼルエンジンの乗用車の販売台数は約9000台。マツダ1社だけですでに昨年1年間の国内のディーゼル乗用車販売を上回る市場を創出したことになる。排気量は2.2Lと小さめだが4Lのガソリンエンジン並みのトルクが出せるため、高速走行時に安定感があり、走る喜びが感じられるという。販売価格も最廉価版が258万円で、競合車に比べて50万~100万円安い。燃費効率もSUVの中では最高レベルの1L当たり18.6km。軽油なので維持費が安いことも人気を呼んだ。

 ディーゼル車は日本では「悪者」のイメージがあるが、排ガス抑制の技術が進んでいることや二酸化炭素の排出量が少ないことなどから欧州では人気が高い。インドなど一部の新興国市場でも売れ筋となっている。マツダは「クリーンディーゼル」を開発し、国内に新たな市場を創出したわけだ。国内市場ではハイブリッド車の人気が高いが、先進的かつ実用的である半面、コンピュータで制御された車であり、開発投資が掛かることから価格は高い。その上、馬を操るような操縦する喜びはどちらかと言えばない。マツダはこうした「電気仕掛けの車」が大流行する国内市場へのアンチテーゼとして、クリーンディーゼル車を打ち出して成功したのだ。

 断っておくが、筆者はハイブリッド車を否定しているわけではない。これはこれで日本が誇るべき製品だと思っている。しかし、機能が複雑である上、開発コストも馬鹿にならない。トヨタのように資本力のある会社は開発投資に耐えられるが、全てのメーカーが対応できるとは限らない。マツダのように経営資源に制約のある会社では、その制約の中でどのような商品開発の思想で臨み、生き残っていくかが問われてくる。これが独自性のある商品につながり、山内社長が言うところの、マツダが目指す技術や商品に感動してくれる顧客とのつながりの強化となる。これこそがまさに意味的価値づくりと言えるのではないだろうか。ここに競争力の本質がある。

 このCX-5がマツダの意味的価値づくりを目指すモノづくり革新の第1弾として誕生した車であり、冒頭で紹介したアテンザがその第2弾である。