2012年11月20日、マツダは同社の屋台骨を支える「アテンザ(マツダ6)」の新型車を発表した。年明けからは大市場の北米でも発売を開始し、マツダの5年ぶりの黒字化を推進させる「起爆車」と位置付ける。今回のコラムは、マツダの「モノづくり思想」について一般には表面からは見えにくい部分をあぶり出すことで、製造業における競争力の本質とは何かを考えてみたい。

国内に留まりグローバルに生き残る

 円高による打撃で輸出比率が高いマツダは決算業績では苦戦が続いている。2009年3月期~2012年3月期においては4年連続で当期赤字を計上、株価も100円台前半で低迷している。しかし、マツダはこの苦境を跳ねのけようと、「1米ドル=77円でも国内生産で輸出しても利益が出る車造りを目指す」(山内孝社長)として、設計や生産の手法など仕事の進め方をゼロベースで見直す新しい取り組みに挑戦している。プロジェクト名は「モノづくり革新」だ。

 トヨタ自動車やホンダと違って資金力など経営資源が限られている中での知恵を振り絞っての大改革である。マツダは、海外に大きくシフトしなくても日本に生産基盤を残しながら利益を出していくもの造りを目指しているわけで、いわば「戦略」でもある。中小下請け企業など、様々な制約からグローバル展開を実行できずにいる企業も数多く存在していることを考えると、その着眼点は参考になるのではないだろうか。

感動を与える「意味的価値」

 特に筆者が好感を持っているのは、マツダの「価値づくり」という発想だ。今回の本題であるモノづくり革新の前に、この価値づくりについても少し触れておきたい。

 世界の自動車市場7500万台程度のうち、マツダのグローバル販売台数は120万台程度と世界シェアは2%にも満たない。こうした中でプレミアムブランドでもないのに、世界で輝く存在として認知されるように取り組む車造りが価値づくりである。山内孝社長も「全ての顧客に支持されなくても、マツダが目指す技術や商品に感動してくれる顧客と強いつながりを持つことが重要」と説明している。

 この価値づくりについては、一橋大学イノベーション研究センターの延岡健太郎教授の著書『価値づくり経営の論理』(日本経済新聞出版社)が参考になる。その一部を要約して紹介すると、商品の価値には数値などで示すことができるスペックや品質などの「機能的価値」と、ユーザーの主観によって決まる「意味的価値」がある。例えば、BMWは、高性能という客観的なデータをベースに高い機能的価値を持つが、それに様々な消費者が様々な理由で商品の意味づけをすることで、機能的価値に意味的価値が大きく上積みされている。消費者にとって意味づけが長く続けばそれがブランド力に進化するということでもある。

 一般的に日本の製造業は機能的価値を作ることは得意だが、意味的価値の創出は苦手な傾向にある。これは平たく言えば、壊れないものを造るのは得意だが、感動を与えられる商品づくりは今ひとつということだ。米Apple社のスマートフォン「iPhone」やタブレット端末「iPad」が世界でシェアを高めているのに、日本メーカーのスマートフォンが苦戦しているのはその象徴的事例と言えるのではないだろうか。