商魂たくましい中国人

 職人気質の日本人に対して、中国人は商人気質だ。職人気質とは、1つのことに取り組み始めると、とことんその真髄を追求していく性質のこと。一方、商人気質とは、どちらかというと金に執着があって、商魂たくましい性質と言われている。

 中国には実は、日本語の「職人」に該当する言葉はない。それと似ているのは、「工匠」という言葉だが、どちらかというと日本語の「大工」の意味合いで使われる。そのため、職人気質に対する理解が乏しい。

 古代から「官」が絶対優位の中国では、「コツコツ」や「まじめ」が報われにくい社会になっている。そこに、近代化の波が押し寄せ、商人気質が浸透していった。「官」と「商」の癒着が指摘されているが、汗を流して、地道な努力を重ねることよりも、工夫をしないで直ぐに金で解決できる方向へ注力する傾向が顕在化した。

 鄧小平氏は1980年代の初め、経済を発展させるために「石を探りながら河を渡る」「白猫黒猫論(白い猫でも黒い猫でもネズミをとれる猫は良い猫だ)」など有名な持論を中国で展開した。利益のためなら手段を選ばない、結果重視という風潮を強めた。

 現在の中国における成長の原動力は、税金優遇政策による外資系会社の誘致と、安い人件費と自然資源を活用するOEM(相手先ブランドによる生産)ビジネスなどが中心になっている。外国からの技術やビジネスモデルの導入に大きく依存しているが、それらの導入において商人気質が多いに発揮され、経済成長につながった。もっとも、そうした気質の発揮対象はそれにとどまらず、誰かが成功すれば瞬く間にそれをコピーしてしまうというところまで及んでいる。「山寨携帯」〔模倣携帯電話機の意味〕は、その最も代表的な例といえる(1)

 このように、マーケティングを優先して、利益のためなら手段を選ばない。そうした中国人の気質は、「職人気質」とは正反対のところにある。

(1)阿甘著、『中国モノマネ工場――世界ブランドを揺さぶる「山寨革命」の衝撃』、日経BP社.