他社とは一線を画す材料開発に定評がある富士フイルム。これまで“不可能”とされてきた材料を開発して業界をアッと言わせている。独自の材料を開発する上でキーワードとなっているのが「銀塩」である。同社が長年、中核事業として蓄積してきた写真フィルム関連の材料技術やノウハウを最大限活用する戦略が成果となって実を結んでいる。同社のR&Dの方針や新材料の開発プロセスは、多くの会社にとって示唆に富む。(聞き手は久米 秀尚)

─かつて「写真フィルムの会社」だった姿は大きく様変わりした。

いのうえ のぶあき 1974年3月に北海道大学大学院 理学研究科 化学第二専攻を修了後、同年4月に富士写真フイルム(現・富士フイルム)に入社。1996年10月に足柄研究所 研究部長、2001年4月に吉田南工場研究部 部長に就き、2004年1月以降はR&D統括本部 材料研究本部 印刷材料研究所長などを歴任。2009年4月から現職。2009年6月から富士フイルムホールディングス 取締役 執行役員 技術経営部長を兼務。趣味は野球とスキー。

 カラー写真用の銀塩フィルムの需要は、2000年をピークに減少の一途をたどり、現在では“消失”してしまった。2011年3月期の連結売上高に占める写真フィルム事業の比率は1%未満と、2000年3月期の19%から劇的に低下している。

 一方で、2011年3月期の連結売上高は2兆2171億円と、2000年3月期の1兆3488億円から約64%も伸びた。この10年程の間に実施した2度の大きな構造改革の成果といえる。

 1度目は2006年で、社名から「写真」という文字を消して「第二の創業」を掲げた。写真フィルムへの依存を改めるのが狙いだった。基幹事業がなくなるという危機感が我々を変革へと突き動かし、新たな柱となる事業の確立を急ピッチで進めた。

 2度目は2008年に起こった「リーマン・ショック」がきっかけで、売上高が2兆3000億円でも営業利益率10%を達成できるようにするための改革である。「デジタルイメージング」「高機能材料」「光学デバイス」「ドキュメント」「グラフィックシステム」「メディカルシステム・ライフサイエンス」の6分野を重点事業に選定し、経営資源を集中的に投入することにした。