日本のデジタル家電企業を最大顧客としてきたTDK。日本のデジタル家電産業が振るわないことで、TDKの経営を取り巻く環境は厳しさを増した。こうした逆風の中、TDKは日本の研究開発力を強みに反転を狙う。日本のエレクトロニクス産業の未来を展望する上で、大いに参考になる。(聞き手は中道 理、大久保 聡)

─この1年大変だったと思うが、総括してほしい。

かみがま たけひろ 1981年4月 に東京電気化学工業(現・TDK)に入社。2001年4月、記録デバイス事業本部 技術戦略部長、2001年10月にヘッドビジネスグループ ゼネラルマネージャー。2002年6月に 執行役員に就任後、2003年に常務執行役員、2004年6月に取締役 専務執行役員、2006年6月に代表取締役社長に就任し、現在に至る。鹿児島県出身、1958年1月12日生まれ。(写真:栗原 克己)

 怒涛のように、次から次へと問題が発生し、それに翻弄された1年だった。3.11の大震災後は、サプライ・チェーンをつなぐことを最優先に動いた。顧客 に対して製品を提供するサプライ・チェーンだけでなく、材料や部材を買い付けるという上流部分のサプライ・チェーンの確保にも大変苦労した。産業への影響 が大きいということで特に自動車向けを優先して取り組んだ。

 自動車メーカーは、自動車製造に必要な部品点数が多いということで、いち早く操業停止を決めてくれた。ここで時間の猶予をもらって、なんとか顧客に迷惑を与えないで済んだ。

 震災以外にもハード・ディスク・メーカーの再編話もあった。米Western Digital社が日立製作所のハード・ディスク事業の買収を公表し、その後、米Seagate Technology社による韓国Samsung Electronics社のハード・ディスク部門の買収が発表された。TDKにとっては大きな影響があるということで、株価がどっと下がってしまった。

 自動車向けのサプライ・チェーンが復活してきたなと思ったら、今度はタイで洪水が発生した。3.11の大震災では工場の被害はそれほどではなく、むしろ電力不足が問題になったが、タイでは二つの工場が水没してしまった。

 追い打ちをかけるように、円高が1ドル75円までいってしまった。今も円高傾向は続いている。これは日本の輸出産業にとってはボディブローのようにじわじわと効いてきている。