前回までは、従来型のマザー工場システムが持つメリット/デメリットを整理し、次への進化に向けて、海外拠点の能力的な自立と本国拠点の位置づけの変革が必要であることを説いてきた。今回からは4回にわたって、ダイキン工業・空調機事業における取り組みを中心に、何社か実例を挙げながらマザー工場システムの変容について紹介していこう。

 その第1回目となる今回は、ダイキン工業がマザー工場システムを導入するまでの流れを説明する。まずはそこから、グローバル生産体制強化策としてのマザー工場システムの有効性を確認してみたい。

本国市場の成熟で海外進出を加速

 ダイキンは、空調事業で世界トップシェアに位置する企業である。2011年時点で売上高は約1兆2200億円であり、そのうちの86%が空調事業によるものとなっている。海外事業比率は60%超で、従業員数も単独で6553人,連結で4万1569人と,現在では海外が事業のメインとなっている()。

表1●ダイキン工業の海外事業指標
n.a.は回答なし。出所:ダイキン工業有価証券報告書(各年度)
会計年度1985199019952000200520102011
連結売上高 (百万円)24774541984142473653190879285711603301218700
日本売上高 (百万円)n.a.375396348586361709415357446839474572
海外売上高 (百万円)n.a.4444576150170199367500713491744128
海外売上高比率(%)n.a.10.617.932.046.461.561.1
連結従業員数 (人)n.a.n.a.n.a.15047217474156944110
単独従業員数 (人)6039756983535662539165536550
海外製造拠点数246112727

 ダイキン工業は、日系製造業のグローバル展開における1つの典型例である。すなわち、1980年代まではダイキン工業の海外進出は限定的であったが、1990年代以降には、本国市場が成熟化したことから、海外進出を加速させている。そして、2000年以後には海外が事業の中心となっていくのである。日系製造業で最も多く見られるパターンだと言っていいだろう。

 ダイキンはその海外展開の進展に合わせ、2000年ごろからマザー工場システムに移行し、さらに2006年ごろから少しずつマザーおよび海外製造子会社の位置づけを修正してきている。ダイキンが辿った歴史をひも解いていくことで、マザー工場システムが何に優れていて、いかなる課題を持っているのかが理解されるだろう。