世界クラスにランキングされるために必要な「心・技・体」

 TOP500のルーツは「High Performance LINPACK(HPL)」という行列計算を行うプログラムを実行し、その性能をランキングした「Dongara report」という文書でした。テネシー大学のJuck Dongara博士が開発したこのプログラム(いろんな言い方があると思いますが、ここではプログラムと呼んでおきます)の実行結果が、スパコンが持つ性能の指標となっていたわけです。そして、その結果はFlops値(1秒あたり何回浮動小数点演算を行えるか)で表されます。

 TOP500のレポートは年2回、6月と11月に更新されます。この6月と11月はスパコン関係者にとっては特別な時期です。6月にはドイツ(International Supercomputing Conference:ISC)、11月には米国(Supercomputing Conference:SC)と大きなスパコンの学会があり(コンベンションも併催されます)、その会期中にTOP500の結果が発表されて表彰も行われます。最近はTOP500のWebサイトもかなり見やすくなり、ランキングされているシステムの傾向もグラフで見られるなど充実しているので、ぜひ皆さんもご覧になってみてください。ちょうどこの連載が公開される頃は、最新の2012年11月版のTOP500の発表で盛り上がっているはずです。

 実際のHPLのプログラムにおいては、実行する際に必要なものがあります。それが「心・技・体」と見出しに書かせていただいた意味でもあります。当たり前のことですが、書いてみましょう。

●実行するためのコンピュータ
●プログラムコードと行列計算のライブラリ(プログラム本体)
●実行時に与えるパラメータ
●プログラムを生成するツール(コンパイラ)

 これらの要素がすべて高い次元で融合してこそ、スパコンの能力を十分引き出し、良い実行結果が出るということなのです。またまたF1の世界に例えるならば、シャシー・エンジン・燃料・メカニック・ドライバー、そしてセッティングのノウハウ。すべてがそろって初めて最速のマシンと言える…。といった感じでしょうか。速いスパコンで何の苦労も無くプログラムを実行したとしても、同じマシンで上記が高いレベルで融合したものならば、さらに高速な結果を叩き出してしまうのです。現場の話を聞くと、まさにマシンの限界まで性能を叩き出そうとする研究者の皆様の努力に、ただただ感心するしかありません。

 では、次回はその実際の現場とTOP500の歴代高速マシンの変遷をひも解きながら、TOP500にランキングされたマシンの特徴や、筆者がある日気になってしまった「ACSI Red」というスパコンについて解説していきたいと思います。(後編へつづく)