大手の証券会社や銀行が倒産することはあっても、どこか、他人事。電機業界は不動産投資などに手を出さなければ大丈夫だろう、と思われていたのかもしれません。それが、DRAMで韓国のSamsung Electronics(三星電子)などに負けた1990年代の後半になると、日本の電機メーカーでも不採算事業の撤退がはじまり、日本企業の間での転職は頻繁に行われるようになりました。

 それでも、外資系企業に移る技術者には、冷たい視線を浴びせる風潮がありました。露骨に「裏切り者」と罵る人も居たように思います。ところが、今では、電機メーカーの多くは経営危機に陥り、希望退職を募るところまで追い込まれました。

 むしろ、外資系企業でもどこでも、従業員が移れるところがあったら、移ってほしいという状況です。そして、シャープに対する台湾Hon Hai Precision Industry(ホンハイ)の出資のように、外国企業の出資がなければ、日本企業が延命することさえ難しいケースも出てきています。

 この20年ほどを振り返ると、会社が盤石だと思えていたのは、幻想だった。もちろん、電機メーカーの中にも社会インフラ事業に舵を切った日立製作所・三菱電機や、東芝のように、時代の変化に応じて中核事業を変え、逞しく生き残っている企業もあります。でも、こうした企業も次の10年、20年の間に、今の形で事業を継続できている保証はありません。

 どんな大きな企業であっても、「絶対に大丈夫」「一生を保証」などないのです。むしろ、社員が「自分の会社は大丈夫」と思った時には、会社は衰退の危機にあると思った方が良いのではないでしょうか。

 では、企業が好調の時に転職するとどうなるか。現在の日本の企業では、自己都合で退職すると、ほとんど退職金を貰えない場合も多いのです。自分で勝手に辞めるんだから、退職金として積み立ててきたお金もチャラ、というわけです。

 勤務年数に応じて退職金が決まる制度では、転職先でも大した退職金を貰うこともできず、結局、損になります。また、以前は、電機メーカーを辞めるのは「不安定」な生活になると思われていました。

 ところが、転職を経験した方の中には、あの時に移って良かった、と思われている方も多いのではないでしょうか。会社は倒れる時はあっという間ですが、内部に居れば、「そろそろ、まずそうだぞ」とかなり前に気付くもの。

 自分の直感で、「ここに居てはマズイ」と思ったら、移る。金銭的には、一見、損に見えても、長期的には「損して得を取る」ような転職も必要ではないでしょうか。