商店街を離れ、工場の壁に沿って歩く。

「富士康普工招募点」と書かれた建物が現れる。フォックスコンでワーカーとして働きたい人たちが申し込みをするための場所だ。春節(旧正月)休暇明けなど人の募集がピークの時期には連日5000人もの人たちがここに並ぶというが、今この場には、ラガーシャツにジーンズの青年が二人いるだけ。四川省から列車で深センに着き、その足でバスを乗り継ぎここに来て初めて、募集の再開が明後日だと知ったという彼らは、「今日からフォックスコンの寮で寝られると思っていたのに……」と当てが外れて困惑気味の様子だった。

フォックスコンのワーカー入社希望者受け付け。週明けまで募集がないと知って所在なげな希望者ら

 窓口に貼られた採用条件を見ると、1日8時間の週5日労働で、基本給は入社9カ月目までが1600元(約2万1000円)で、残業代を含めると最大で2800元(約3万7000円)。これが10カ月目以降になると基本給2200元(約2万9000円)、残業代込みで最大3500元(約4万6000円)になるとある。月~金曜日は食事も支給され、寮に住めるとはいえ、「しまむら」並みの物価水準の中で、遊びたい盛りの10代後半から20代半ばのワーカー達が貯金をするのは楽ではないだろう。

 歩き始めて1時間。まだまだ工場は続く。道路標識に「鴻富錦保税工場」「深超光電有限公司」の名前が見える。両者ともフォックスコン傘下の企業で、前者の保税工場とは、工場内で通関ができる、いわば「外国」扱いの特殊なエリア。後者はフォックスコンが出資する第5.5世代の低温多結晶シリコン(LTPS)ラインを持つパネル工場で、いずれも同じ工場の敷地内にある。

フォックスコン傘下の企業「鴻富錦保税工場」の入り口

 ちなみに、保税区に工場があるという企業は中国にいくらでもあるが、工場の中に保税区を持つことが許されているのは、深センではフォックスコンと、中国系の某EMSの2社のみだと聞いた。フォックスコンが地元当局からいかに大切にされてきたかを示すものだ。もっとも近年、深センから内陸に生産拠点を移し始めているフォックスコンと、同社の移転によって税収や雇用が流出することになる深セン当局との関係は最近、微妙なものになりつつあるらしいが。