気をとりなおして再び歩く。

 工場には要所要所に何カ所かの門が設けられているのだが、それぞれの門の周囲にフォックスコンの従業員を目当てにした店が立ち並び、繁華な一角を形成している。中でもこの釣魚島串焼き屋のある南門と正門付近の商店街は規模が大きい。

 洋服屋、靴屋、化粧品屋、雑貨屋、携帯電話屋、電気修理屋、果物屋、スーパー、食堂など日常生活に必要なものを扱う店はもとより、ネットカフェ、ビリヤード屋、スケートリンク、アニメ専門の個室ビデオなど娯楽施設もある。カジュアル衣料の店で値段を見ると、ブルゾンが239元(約3150円)、ジーンズが149元(約1960円)など。日本で言うなら「しまむら」と同程度か、いくぶん高いぐらいの価格設定か。

 露出の多い女性の写真を看板にした足裏マッサージ店は、その実、風俗店だ。近くにあった歩道橋の路面は「カードでお金」「担保不要で1万~50万元まで即日融資」などとうたった、おびただしい数の消費者金融のチラシで埋め尽くされている。人間の欲望にかかわるサービスを提供する業者もきちんと揃っているというわけである。

フォックスコン入社希望者のためにタトゥー・入れ墨をレーザで消すサービスを提供する店

 「レーザでタトゥーを消します」という看板を出している店があるのを見つけた。しかも1軒でなく数軒。当コラムでも「iPhone 4とトイレットペーパー~120万人企業の福利厚生」の回で、フォックスコン四川省成都工場の従業員の応募条件に「入れ墨・タトゥー禁止」があることを伝えたが、深センでも同様なのだろう。

 店員に料金を聞くと、例えば腕の幅いっぱいに入れた「卍」などの漢字一文字なら、100元(約1320円。1元=約13.2円)で消してくれるのだそうだ。看板にあるサンプルの写真を見ると、確かに消えている。ただレーザの処置は、4畳半程度の広さしかない薄暗いプレハブの店内に置かれた簡易ベッドに寝かされ、どうみても10代にしか見えない店番のその女の子がやるのだという。フォックスコンで働こうとするのも、なかなか勇気が要る。