古賀総研 特許調査部門、主幹技師、佐野 昌氏。1953年生まれ。日立製作所 半導体事業部にてメモリやマイコンの設計および経営企画に従事。その後、ルネサス テクノロジや半導体理工学研究センターなどを経て現職。
古賀総研 特許調査部門、主幹技師、佐野 昌氏。1953年生まれ。日立製作所 半導体事業部にてメモリやマイコンの設計および経営企画に従事。その後、ルネサス テクノロジや半導体理工学研究センターなどを経て現職。
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半導体衰退の原因と生き残りの鍵、佐野 昌著、1,995円(税込)、216ページ、日刊工業新聞社、2012年9月
半導体衰退の原因と生き残りの鍵、佐野 昌著、1,995円(税込)、216ページ、日刊工業新聞社、2012年9月
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 「国内の半導体メーカーが生き残るために、もっと真剣な議論をしてほしい」─。これがこの本を通じて言いたかったことです。自分は長年、日立製作所の半導体事業部でメモリやマイコンの設計を担当し、その後はルネサス テクノロジ(現在のルネサス エレクトロニクス)で経営企画の仕事をしてきました。その中で、社内の方針を決定する際に十分な議論がなされていないと感じる場面が多々ありました。

 例えば、2000年代前半、急成長したSiファウンドリーに対して、自社の半導体工場の位置付けをどうすべきか社内で議論した時のことです。製造部門を中心に「ウチは製造に強みがあるのだから、IDM(垂直統合型メーカー)の事業モデルを堅持すべきだ」という意見が相次ぎ、それが方針として決定されてしまいました。製造部門に聞いたら、そう答えるのは当たり前です。

 これと同じことが、マイコンのコアを選定する場面でもありました。ARMコアを採用すべきではないかという議論では、当然ながら社内の担当者が「自社のコアの方が優れている」と主張します。そして、それが方針として決定されてしまうのです。下からの積み上げで物事を決めようとするボトムアップ式の意思決定手法に、根本的な問題があったと考えています。

 これは何もルネサスに限った話ではありません。国内の半導体メーカーに共通する根深い問題です。1990年代後半に、国内半導体メーカーはこぞってシステムLSI(SoC)事業に舵を切りましたが、その時に果たして真剣な議論がなされていたのでしょうか。とても、そうは思えません。その頃からSoC事業は赤字が続いていましたし、既に海外メーカーに先行を許していました。それでも「次の成長市場はSoC」と信じて疑いませんでした。

 現在、国内の半導体メーカーはファブレス/ファブライト・モデルを標榜していますが、実態は従来のIDMモデルとさほど変わっていません。技術者の配置転換はなかなか進まず、多くの技術者が自分の専門分野を生涯変えたくないと思っています。このような状態が長く続けば、企業の競争力は徐々に弱まり、取り返しがつかなくなるでしょう。そうなる前に、もう一度真剣な議論をすべきです。特に半導体の設計力強化に向けた方策を早急に考えるべきでしょう。(談、聞き手は日経エレクトロニクス)

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