東京電力と原子力損害賠償支援機構は2012年11月19日、スマートメーターの調達に向けた通信機能の提案募集(RFP:request for proposal)を開始しました。2013年2月中まで提案を受け付け、同年3~4月に調達先を決定する予定です(関連記事)。東京電力では管轄内で、2018年度までに1700万台、2023年度までに2700万台を導入して全需要家への導入を完了する計画です(スマートメーターの最新動向については、日経エレクトロニクスの2012年11月12日号の特集「見えてきた、スマートメーターの実像」に掲載しています)。

 スマートメーターの普及によって大きく変わるのが、電力需給に応じた変動価格制(ダイナミック・プライシング)の導入が容易になることです。夏季日中や冬季夕方などの電力逼迫時には電力料金を引き上げ、夜間などの電力余剰時には電力料金を引き下げるというものです。最近では福岡県北九州市や愛知県豊田市などで実証試験が行われています(北九州市の関連記事中部電力のニュース・リリース)。

 現状でも「時間帯別電灯」と呼ぶ昼間と夜間での電気料金を切り替える料金体制があります。例えば、東京電力では割安な夜間時間を、午後11時~午前7時の8時間で設定している「おトクなナイト8」と、午後10時~午前8時の10時間で設定している「おトクなナイト10」があります。前者は1kWh当たり昼間30.87円、夜間11.82円で、後者が昼間33.6円、夜間12.06円です。そのため、昼間と夜間の差は1kWh当たり19.05~21.54円となります。

 さて、定置用蓄電池を一般家庭に設置して、10年で償却しようとすると、どのくらいの価格であれば定置用蓄電池を設置できるのでしょうか。一般家庭での1日当たりの使用電力量を10kWhとして、これを4kWhの蓄電池を設置して夜間に充電して昼間にすべて利用したとすると、電力料金の差は1日当たり約80円です。その結果、年間当たりでは、約2万9200円で、10年間では約29万2000円となります。つまり、4kWhの定置用蓄電池を30万円以下で購入できないと償却はかなわないわけです。この価格には電力を変換するインバータやコンバータも含まれています。システムとして1kWh当たり7万5000円以下を実現できないといけません。

 ですが、スマートメーターが普及してダイナミック・プライシングの導入が始まれば、話は少し変わります。例えば、夏季日中と冬季夕方の電力逼迫時には1kWh当たり100円、深夜の電力余剰時には同10円という価格差が仮に設定されれば、その差は90円になります。この価格差を夏季2カ月間の午後1時~午後5時までの4時間と、冬季2カ月間の午後4時~午後8時に限定的に運用したとすると、価格差は90円×4kWh×4カ月分=4万3200円となります。これ以外の期間は上記の時間帯別電灯と同じ設定だとすると、夏季と冬季(4万3200円)+その他の期間(20円×4kWh×8カ月分=1万9200円)=6万2400円となります(著者注:将来的に太陽電池の導入が進むと、夏季日中の電力逼迫よりも、夏季と冬季夕方の電力逼迫の方が大きな問題になる可能性があります)。

 つまり、10年償却であれば、4kWhの蓄電池を約60万円で購入できればいいわけです。これはシステムとして1kWh当たり15万円ということになります。仮に1kW当たり7万5000円を実現できれば、5年で償却できるようになり、急速に普及する可能性を秘めています。

 現在、各社から販売されている家庭用蓄電池がNECやエリーパワー、ニチコン、ソニー、パナソニックなどから発売されていますが、価格は1kWh当たり25万円以上とまだまだ高いのが実状です。ですが、スマートメーターが普及する2020年ごろには、システムとして、1kWh当たり10万円を切る価格を実現できるはずです。今後、スマートメーターの普及が定置用蓄電池の普及と密接なかかわり合いを持ってきそうです。