買収で特許ポジションの強化も

 これらのApple社側の攻勢に対して、HTC社側はApple社が新たな動きに出る度に、それに呼応してITCへ提訴したり、デラウェア州地裁で反訴したりしてきた。なかでも2011年12月、HTC社はITC調査が進行していることを理由にデラウェア州地裁でのAppleが提訴したすべての裁判の審理を保留する裁判所命令を勝ち取っている。その結果、地裁での特許の有効性や侵害の有無についての審理がITCの調査結果待ちとなり、まったく進んでいない。その成果もあり、この度の和解成立までに、両社が訴訟で上げた目立った成果といえば、Apple社が最初に提訴したITC調査において、同社の特許1件(米国特許番号5,946,647)がHTC社に侵害されていることが2011年12月に正式決定されたことだけである。しかも、当の’647特許はソフトウエアの変更によって回避することが可能だと考えられている。従って、現時点では、外見上、両社双方に歩み寄りせざるを得ない大きな打撃が加えられたと見られる要素はない。

 とはいえ、舞台裏では様々な駆け引きが続いていた。その一つは、両社ともに巨額の投資も顧みず自社の特許ポジションの強化を進めてきたことだ。HTC社は2011年7月6日に米S3 Graphics社を3億米ドルで買収することに合意したと発表した。この買収でHTC社はS3 Graphics社の特許235件を獲得することになった。しかもその買収合意発表は、S3 Graphics社がApple社を訴えたITC調査において、Apple社がS3 Graphics社特許2件の侵害を認めた決定が出された5日後のことであった。さらに、その3カ月前の4月、米ADC Telecommunications社(以下「ADC社」)から無線通信関連特許96件を7500万米ドルで買収合意している。

 そしてこれら買収劇の後、HTC社は8月16日、Apple社を特許3件(HTC社特許1件、ADC社特許2件)の侵害でITCに提訴するとともに(調査番号337-TA-808)、矢継ぎ早に9月7日にはGoogle特許9件を利用してデラウェア州地裁で反訴した(事件番号11-cv-00611)。この事件が、Google社がAndroid陣営企業を具体的に特許支援する最初の試みと見なされている。Google社はそれまでに、2011年7月から8月にかけてIBM特許2000件、そして同じく2011年8月にMotorola Mobility社の買収合意を発表した。Google社はこの買収に125億米ドルもの巨額を投じて、スマホ事業そのものを獲得するとともに、Motorola Mobility社の保有する2万4500件もの特許を手中に収めた。

 他方、Apple社は2011年6月末にカナダNortel Networks社特許オークションでカナダRockstar Bidcoコンソーシアムの一員として45億米ドルで通信関連特許6000件の買収に成功していた。Apple社, RIM社, EMC社 Ericsson社, Microsoft社およびSony社の6社で構成されたコンソーシアムのなかでも、Apple社単独で26億米ドルを出資し、これにより同社は同特許ポートフォリオのなかでも最も重要と見られる4G/LTE関連特許を中心に1000件以上を獲得した。さらに、Apple社は同社による2件目のITC提訴において、2008年にBritish Telecom社から取得した特許も利用している。