「東京電力のスマートメーターは、なぜIPを採用したのか。正直に言うと、疑問を感じている」
 スマートメーターの取材をしていた時、スマートメーターの部品を手掛けるある大手電機メーカーの開発担当の方がぼやいていました。スマートメーターは、電子式の電力・ガス量計に通信機能を組み込んで検針値を遠隔監視できるようにした装置です。欧米を中心に導入が進んでいて、日本でも本格的な導入が始まろうとしています。国内最大の電力事業者である東京電力が2018年度までに1700万台、2023年度までに2700万台を設置して全需要家への導入を完了する計画です。

 東京電力は当初、スマートメーターの仕様を独自に決めて、既存のメーター・メーカーに発注する予定でした。しかし各方面からの要求を受け、2012年3月にスマートメーターの仕様に関する意見を広く募りました。そして、集まった意見を基にオープンな仕様を策定する方針を同年7月に発表しました。

 スマートメーターの通信ルートは、大きく二つあります。電力/ガス事業者側でメーターを管理する「メーター・データ管理システム(MDMS)」につながる通称「Aルート」と、企業や家庭内の機器やエネルギー管理システム(EMS)につながる通称「Bルート」です。Aルートの通信では、エネルギー事業者が各メーターの検針値を収集するほか、エネルギー供給の開始・遮断などを行います。一方Bルートの通信は、EMSとの連携による家庭内の省エネ化などを目的としています。

 11月12日の現時点で東京電力のスマートメーターの通信機能の詳細仕様は策定中ですが、7月に発表された方針で、両ルートの通信ともにTCPおよびUDP/IPを採用することが決まっています。IPベースのほうが、独自仕様よりもコストなどのメリットが大きいという判断とのことです。しかし、冒頭の担当の方はAルートの通信がIPベースということを懸念視しています。「家庭内につながるBルートは妥当だと思うが、AルートにIPを使うのは処理のオーバーヘッドが大きすぎるし、セキュリティーの問題もある」というのです。

 従来、スマートメーターのAルートの通信は、オーバーヘッドの小さい非公開の通信規格が使用されるのが一般的です。IPの世界では、「IPsec」といった高度なセキュリティー技術が日々進化を続けていますが、一方でセキュリティーをかいくぐるハッキングやクラッキングの技術も進化しています。IPはオープンな技術であるが故に、非公開の規格に比べるとネットワークに不正侵入されたりする危険性が高まります。

 もちろん担当の方の主張を鵜呑みにはできませんが、少なくとも「実証実験などを十分に重ねた上で、オープンな技術とそうでない技術を適材適所で使うべきではないか」という主張はもっともだと思います。スマートメーターはいずれ、すべての家庭に設置されます。だからこそ、いち需要家としても東京電力がセキュリティーに万全な対策を講じることを強く願います。弊誌11月12日号の特集「見えてきた、スマートメーターの実像」では、このように私たちにとっても近い将来、身近な機器となるスマートメーターの動向をまとめました。ご関心を抱かれた方は、ぜひご一読いただければ幸いです。