「パソコン(PC)ブランドの最近の発言や動向は、まるで『ウチの製品が売れないのは、研究・開発(R&D)や設計を任せてきた台湾のODM(Original design manufacturer)にイノベーションやクリエーティビティがないためだ』と言わんばかり。R&Dに巨額の費用を投じてきた台湾系のODMは、苦々しく思っているよ」

 こう話すのは、上海近郊に生産拠点を置くあるODM大手の台湾人幹部。実のところ、中国、台湾の最近の報道をくまなくチェックしてみても、PCブランドが「台湾ODMのせいで製品が売れない」と真正面から発言したものは見当たらない。ただ、PCブランドが製品の生産でODMとの付き合い方を見直そうとしているという記事が、ここ1~2カ月で増え始めたのは事実だ。

 2012年11月2日付の台湾の経済紙『工商時報』の記事もそのうちの1つ。それによると、ノートPC業界では、スマートフォン「iPhone」やタブレットPC「iPad」で世界を席巻する米Apple社の成功の一因が、R&Dや設計を自ら行っていることにあると分析。一方で、PC業界に目を転じてみても、製品出荷が好調な中国Lenovo社(聯想)と台湾ASUSTeK社(華碩)に共通するのは自社設計の比率が高いことで、それが製品の差別化で新たな局面を切り開くことにつながっているとの認識が各社の間に広まり始めているという。

 米Gartner社の2012年10月10日の発表によると、Lenovo社は2012年第3四半期に、出荷台数ベースのPC世界シェアで15.7%を獲得、15.5%の米Hewlett-Packard(HP)社を抑えて初の世界首位に躍り出た。また、同期の世界シェア上位5社の中で、出荷台数を前年同期比で増やしたのは首位のLenovo社(9.8%増)と5位のASUSTeK社(11.8%増)のみ。残りの3社は2位のHP社が16.4%減、3位の米Dell社が13.7%減、4位の台湾Acer社(宏碁)が10.2%減といずれも2ケタの減少を見せており、確かにLenovo社とASUSTeK社の好調ぶりが際立つ。

 こうした状況から、PCブランド企業各社の間では最近、Quanta Computer社(広達電脳)やCompal Electronics社(仁宝電脳)など、台湾系の大手ODMに丸投げしてきた製品のR&Dや設計を自社で手がけ、それによって製品の差別化を図ろうという動きが表面化し始めている。

 ノートPCの分野ではこれまで、製品のR&Dから生産までの業務はODM企業に委託し、ブランド企業は販売チャネルの管理に専念するというスタイルが多かった。これに対してApple社は、iPhoneとiPadで、R&Dと設計は自らが手がけ、生産のみを電子機器受託生産(EMS)の台湾Hon Hai Precision Industry社〔鴻海精密工業、通称:Foxconn(フォックスコン)〕に発注するというスタイルを採用している。「MacBook Pro」をはじめとするノートPCについても同様で、生産はODMのQuanta社に委託するが、R&Dと設計はApple社が行っている*1

*1 Quanta社にはアセンブリのみのEMS方式で生産を発注しているものと見られている。