前回、前々回と、この20年余りのPLMツールベンダー側の展開戦略と、ユーザー側のPLM構築経緯や課題を中心に、「これまでのPLM」として流れを振り返ってみた。筆者自身はその前半15年ほどを使用者側として経験し、また直近の約5年は提供者側として過ごしてきたが、いまや「PLMは最近の経営者の関心を得るキーワードではなくなってきている」ことを痛感している。
しかし、第8回まで述べてきたように、日本のものづくり企業が“イノベーティブな川上機能に強化・再構築”し直し、世界の競争を勝ち抜くためにも、PLMの戦略的なコンセプトを改めて理解し、自社のこれからに合った形で実現することが極めて重要になる。今回はその思いを「これからのPLM」という主旨で書いてみたい。
「これからのPLM」概略
「これからのPLM」について、“製造業に影響を与えるキーワード”、“PLMベンダーの動き”(筆者の主観)、そして、“これからのPLMで実現すべきこと”を項目として表にしてみた。
関係項目/時期 | 製造業に影響を与えるキーワード | PLM(CAD、PDM)ベンダーの動き (筆者の主観) |
これからのPLMで実現したいこと (企業が展開すべき方向) |
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現在を含むこれから |
◆日本のものづくり企業は[1]~[4]のどれかを選択し勝負 [1]グローバル水平協業の進化 ・製造、組み立てだけでなく開発設計まで含め労働賃金の低い地域へのEMS化が進展 [2]グローバル水平統合 ・研究開発時点から戦略的な相互関係を築き共同化を進展(航空機から医療機器、先端デバイスなどへも拡大) [3]市場情報分析(BigData、M2M) [4]尖った垂直統合(宇宙、先端医療など) ◆モジュラー設計対応 ◆“ものづくり”~“もの・ことづくり”多様化 |
◆PLMのクラウドサービス化 ・費用低減 ・中小企業への展開 ・開発ベンダーの付加価値 ◆複数の系にまたがる連携PLM ・機構系、エレキ系、ソフト系PLMの連携PLM ◆業界別(基準・規格を含む)対応ソリューション ・医療、食料品機器、一般消費財、化学、建築 ◆要求管理機能の追加 ◆ビューワー機能の強化 ◆ノウハウ・ナレッジマネジメント機能の強化 ◆新しいPLMビジネスモデルの拡大 ・OSS、サブスクリプション・モデル |
◆ものづくり企業の「開発~市場」までカバーするコンセプト・戦略としての展開 ◆川上機能の情報生成に役立ち、その情報の次工程での活用に役立つ ◆グローバルな「川上機能のローカル化」への対応 ◆データ管理からプロセス、プロシージャ管理を主体とした形への進化 例: ◇業務プラットフォーム ・業務プロセスやプロシージャのプラットフォーム化 ・業務プラットフォームのグローバル対応(技術移管と技術流出防止の両立) ◇モジュラー設計対応 ・モジュラー設計の機能設計に対応した形状設計など ◆ビジネスプラットフォームとしての役割 ・M2Mのライフサイクル・マネジメントへの組込み ◆ノウハウ再活用・創造支援ができること -ノウハウ・知見⇒知恵 -BigData分析 ◆PLMツール同士の連携強化(汎用性) |
表の各項目それぞれの詳解は省くが、「これからのPLM」で実現したいポイントは次の3点である。
[1]PLM戦略を企業戦略の1つとして位置付け、目的を的確にして、他の関係戦略とも紐付けて展開すること。
[2]製品やサービスのライフサイクルにわたり、関係する情報を最大限活用して見える化し、マネジメントの質を上げて、業務効率や利益を最大化すること。
[3]PLMを、川上機能において良い情報を生成し、さらに創造的な業務が行える業務基盤(業務プラットフォーム)となり得るものにしていくこと。
前述の通り個々は詳説しないが、[3]のみ補足説明しておこう。川上機能の、特に上流機能(コア技術開発機能、ベース機種の企画・開発機能、モジュラー設計でいうところの“製品モデル”を確立する機能)は、製品やサービスの基礎を作り込む役割を持ち、機能・品質・原価などの7割以上がこの段階で決まってしまう。さらにここでは、中長期に向けた製品やサービスを創造するために、市場からの情報などを入手・分析して製品づくりに反映させることも必要となる。だからこそ、これからの競争を勝ち抜くための最たる強化領域として、PLMの展開が欠かせない。従来、PLMとは無縁か、あるいは疎遠だった現場にこそ「現場も喜ぶPLM」を展開したい。それが筆者の強い思いでもある。