物議を醸す引き算、カッコ悪い引き算とは、今ある産業が消える、愛している物事が消える未来予測である。つまり、技術の発展が現存する何を消そうとしているかの把握である。

 たとえば、電子メールは年賀状を駆逐し、動画共有サイトはテレビを消す。デジタル・カメラは銀塩フィルムを駆逐し、エコカーはガソリン・スタンドを潰す。未来の自動車は現在の自動車の延長線上にはない。それは、自動車が馬車の延長線上にないことからも分かることである。蒸気機関で走る列車が内燃機関で走る自動車にとって代わられた。旧国鉄による列車輸送が宅配便による自動車輸送に置き換わった。それなら、水素の時代の主役は何だろう。私は電動車椅子と見立てた。ドア・ツー・ドアからルーム・ツー・ルーム。家の中に入ってくる車である。

 未来予測は難しい。今あるものを否定しなければならない。今あるものの延長線上では大した未来予測ではない。大きく変えるためには引き算をしなければならない。卸が無くなり、倉庫が無くなり、工場が無くなる。店舗が無くなり、学校が無くなり、病院が無くなる。国境が無くなり、政府が無くなり、人がいなくなる。地球が無くなり、太陽が無くなる。

 無くなった後、生まれてくるものは何?