その事象とは、GoProが民生機器の枠を飛び出して放送業界の撮影機材として利用が拡大していること。バラエティ番組で出演者がバンジージャンプや絶叫マシンに挑戦するシーン、登山などの探検ものの番組でヘルメットに取り付けてある、あのカメラです。最近は、テレビで見ない日がないといっても過言ではないですから、ご存じの読者も多いでしょう。同じ用途に使ってきた従来の業務用小型カメラに比べると価格が1/10ほどの格安カメラで、放送に十分な映像を撮影できることが採用拡大の理由です。(詳しくは、日経エレクトロニクスの2012年11月12日号で紹介する予定です) 

 開発企業の創業者はサーフィンが趣味で、自分の技術を映した動画を「YouTube」などで自慢したいというのが開発のキッカケだったといいます。関係者によると、最初は本当におもちゃのようなカメラだったそうです。

 自分たちが欲しい機能を加えながら、次第に改良を加えるうちに価格の水準はそのままに放送業界でも使える業務用クオリティになった。2012年10月には、4K×2K動画(3840×2160画素)の動画を15フレーム/秒で撮影できる、無線LAN機能内蔵の最新機種を周辺アクセサリとセットで400米ドルほどで発売しました。機能は限定されているとはいえ、4Kカメラがこの価格。破格です。

どんどん丸く、当たり障りがない方向に

 ここにきて、ソニーやJVCケンウッドが同様のコンセプトで開発したアクション・カメラを製品化しました。GoProのヒットを見てから始めた開発と考えて間違いないでしょう。

 では、同じようなアイデアが大手カメラ・メーカーの開発者にはなかったのか。ちょっとそうは考えにくい。同じようなコンセプトは大手メーカーの取材で以前から聞いていましたし、アウトドアスポーツが趣味の開発者は必ずいるはず。ニーズに気付かないわけがありません。

 結局、ヤング氏が語るところの「とっぴな、不完全なアイデア」を残しておかず、真っ先に捨てる仕組みが企業の中にあるのではないかと思うのです。「アウトドアスポーツ? どんだけ売れるんだ?」という問いに対して、「だって、いろいろ自慢したいでしょう? 面白いじゃん!」という説明は通らないということです。別の方向から理由を再構築する必要が出てきます。かくして、コンセプトを説明する相手が多ければ多いほどに、アイデアはどんどん角が丸くなり、当たり障りのない方向に落ち着いていく。

 うーん。アイデアを取り巻く状況は、かなり入り組んだ複雑なものだということが、話を聞けば聞くほどに分かってきました。悩みは深い。果たして、自分の特集記事は日の目を見るのか。アイデアが枯渇し、白紙になってしまうのか。ドキドキの時間が、今も過ぎていきます。