書籍の中でヤング氏は「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と書いています。これが最も大切な事実だと。当たり前のように聞こえますが、真理をついています。何もない状態からアイデアは降ってこないのだというわけです。重要なのは、既にある要素の結び付き(関連付け)を見つけ出す才能と指摘しています。それは訓練できると。

 まず、データ(情報、資料)を集め、そのデータについてできる限り咀嚼(そしゃく)する。この時に大事なのは、もちろん内容を理解し関連性を考えることです。そして、限界まで消化できたら、できる限り忘れる。心の外に放り出してしまう(!)。

 ここに至って初めて、お風呂に浸かっているアルキメデスと同じ状態になるというわけです。あとはアイデアが降りてくるのを待ち、「ユーレカ(われ見いだせり)!」と叫ぶだけ。さらに、その後にアイデアを具体化し、展開する。

 かなりはしょっていますが、これがヤング氏が紹介している「アイデアのつくり方」の流れの概略です。巻末に解説を寄せている地球物理学者の竹内均氏は、「広告業界と自然科学といった全く違った方面での『アイデアのつくり方』がこれほどぴったりと一致するとは、私は全く考えてもいなかった」と記しています。文系でも理系でも、アイデアを生み出す真理は同じということかもしれません。

どんなに「とっぴ」でも、不完全でも書きとめておく

 記者のまとめ方に問題は多々ありそうですが、ヤング氏の発想法は「これだけ?」という感じでもあります。でも、読めば読むほど、考えれば考えるほど、これを実行に移すのはとても難しいことだと気付かされるのです。

 特に印象に残ったのは、データを咀嚼する際にちょっとした部分的なアイデアが浮かんだ時、「どんなにとっぴに、あるいは不完全なものに思えても一切気にとめないで書きとめておきたまえ」というヤング氏のアドバイスでした。「こんなのつまんないよなぁ」とか、上司の顔を思い浮かべて「これは却下されるな」とか、「恥ずかしいなぁ」とは思わずに残しておけということでしょう。

 これは、意外に難しいことです。最近、大手メーカーの研究開発関連の経営者に取材すると出てくる言葉は、「なかなか面白いテーマが研究者や技術者から上がってこない。僕らが若い頃はね…」。一方、現場の開発者から聞くのは「だって、提案しても、『それでいくら儲かるんだ? 100億円くらい売れるのか』と言われちゃいますからね」。両者の言い分は、それぞれ理解できます。それだけに意識の溝は、かなり深い。

 最近、この溝の存在を考えさせられた、話題のデジタル・カメラがあります。米国のベンチャー企業Woodman Labs社が開発した「GoPro」シリーズという製品です。外形寸法は42mm×60mm×36mmほどで、重さが100gを切る本当に小さなカメラで、170度の広角レンズで動画と写真を撮影できます。本当に機能は限定的ですが、防水・防塵用のケースやさまざまな場所に取り付けるアクセサリとセットで3万円ほどの価格。これが、モータースポーツやサーフィン、自転車などアウトドア・スポーツのファンに人気を博し、「アクション・カメラ」と呼ばれる新しい分野を築きました。

 興味深いのは、このカメラを取り巻くもう一つの事象です。